償いの行方 カネミ油症事件発生から40年
<6完>
突破口
 人権侵害の歴史明らかに


国の健康実態調査も鍵

 「すみませんでした」。二〇〇六年、玄関先で菓子を手にしたカネミ倉庫担当者が頭を下げた。「(手術で)体ば切りまくっとっとぞ」。玉之浦町の男性(71)は震える声で責めた。

 同社は、男性が新たに油症認定されたため来訪。二十三万円の一時金について説明し、五分程度で帰っていった。後で油症受療券が届いた。接触はそれだけ。同社は、健康被害の賠償金も認定まで自己負担した多額の医療費も払わない。

 PCB(ポリ塩化ビフェニール)を製造したカネカはどうか。同社は一九八七年に全訴訟一括和解。当時の原告、未訴訟患者に、同社に責任がないことを認めさせた上で、約三百万円の見舞金を支給したり、仮執行金返還を求めないなどの措置を取った。しかし、新認定患者には相当額を渡そうとしない。

 認定されてもメリットが薄いという現実が、新認定患者の前に立ちふさがる。


写真
新認定患者のカネミ油症裁判を担当する原告側弁護団の保田弁護士(中央)ら=五島市福江総合福祉保健センター
 五島市などの新認定患者はカネミ倉庫に損害賠償を求め二十三日、福岡地裁小倉支部に提訴する。請求額は一人千百万円。「被害の重さを考えると安い。カネカを訴えないのもむなしい。でも長期化は避けたい」。同市の新認定患者の妻、永尾喜美子さん(74)が複雑な心情を語る。

 油症事件は入り組んだ経過を歩んできた。国の賠償の仮払金問題は昨年の特例法成立で進展したが、患者の医療費は安定支給されず健康管理のための手当もない。裁判で新認定患者の苦悩が明らかになれば、未認定を含む四十年間の人権侵害も見えてくるはず。訴訟は救済から程遠い油症患者の現状を転換する突破口となるのか。

 国は近く、初の油症健康実態調査を実施する。原告弁護団の保田行雄弁護士は「真の被害が把握されれば医療費の公的負担への流れも期待される。カネミ倉庫が医療費支払い責任から解かれれば同社の未払いの賠償問題に取りかかることができる。石綿健康被害救済法などと同様、柔軟な形が実現していいはず」と指摘。カネミ油症五島市の会の宿輪敏子事務局長(46)は「並行して進む新認定裁判と健康実態調査を、本格救済の扉を開ける鍵にしなければならない」と考えている。

◎メモ/健康実態調査

 厚労省が初めて認定患者約1300人らを対象に本年度実施。同省ワーキンググループ(古江増隆座長)が疾病や症状、生活習慣、仕事への支障、死亡者の概要など多岐にわたる設問を設定。油症の実態解明が期待される。


2008年5月23日長崎新聞掲載


TOP