苦悩の仮払金
( 4 )
残酷な連鎖
  子や親族が債務を相続


 猛毒のダイオキシンによる油症被害に、追い打ちをかける「負の遺産」仮払金。返還の履行を延期された人、分割払いしている人、債務を相続した人、これから相続せねばならない人…。それぞれの不条理な苦悩が残酷に連鎖している。

 汚染油が持ち込まれた五島市の奈留島。六十代の漁業の男性が語る。

 「こんなへき地になぜ毒油を持ってきたのか。国にも非があるはずなのに、どうして仮払金を返還請求するのか。納得などできるものか」

 二十代のころ、漁がないと島内の食堂で晩飯を食べた。そこで汚染油が使われていた。「皮膚が吹き出物だらけになった。においがひどかった。今も体がだるく、疲れやすい」

 油症を隠して結婚したが、頭髪など全身の毛が抜け落ちた。妻は夫が油症だと知り、流産。男性は全国統一訴訟の第一陣原告になった。貧困の中、仮払金は、医療費と生活費に消えた。「当時の弁護士は返さなくていいと言っていた」。だが、返還請求は来た。

 無資力と認められ、今は十年間の履行延期措置が適用されている。無資力かどうかを再度判断する調停が迫っている。左耳が聞こえなくなり、手の指は関節痛で曲がらない。脱毛も断続的にみられる。

女性患者
「助けてください」。市議たちに仮払金の苦しみを訴える女性患者(手前)=五島市役所
 最大の不安は、自分が死ぬと、約三百万円の仮払金債務が子どもたちに引き継がれること。返したいが、返せる額ではない。四人の子には、まだ話せずにいる。

 福江島西端の五島市玉之浦町で暮らす未認定患者の六十代の女性。四年前に死亡した父親が残した仮払金債務三百三十万円を、一人で相続した。

 もともと認定患者の両親と弟妹の計六人が、仮払金債務者。女性は家族と同じように汚染油を食べた。だが、夫の仕事の関係で関西へ移住し、認定診査につながる油症検診を受ける機会がなかった。

 糖尿病や脊椎(せきつい)の病気で苦しみ、油症検診を受けたのに認定は棄却された。長女はホルモンバランスや血液循環が悪く、アレルギーを患う。

 それぞれ債務を抱える弟妹は、生活が厳しい。女性が父親の相続を放棄すれば親族に及ぶ。迷惑は掛けられなかった。背負った多額の「借金」を、返せる当ては全くない。

 「相続した仮払金債務は、私が死んだら県外の子どもにかぶさる。もう終わりにしてほしい」

 玉之浦町の七十代の女性は昨年十二月、与党プロジェクトチーム(PT)の法案骨子の再検討と相続打ち切りを、中尾市長や市議らに訴えた。

 「油症のことを知らない甥(おい)が、仮払金を返せと言われている」

 女性の夫は九人きょうだいで、油症で亡くなった父親に支払われた仮払金を一人平均約九十万円ずつ受け取った。うち末っ子は債務を抱えたまま死に、その息子に仮払金返還を求める通知が来たのだ。

 「どこまで追い掛けてくるのか。これが日本ですか。助けてください」。悲痛な声が響いた。


2007年1月26日長崎新聞掲載


TOP