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石木ダム建設問題
石木ダム計画を問う(6)完=事業認定編=
佐世保支社 山口恭祐
「少数を犠牲」重い命題
推進側には“解決”の切り札
石木ダム建設で県と佐世保市は11月9日、国土交通省九州地方整備局に事業認定を申請した。手続きの公正さを強く主張する県市に、反対派は「ダム建設を前提にした強硬策」と反発を強める。事業認定は行き詰まった事業を“解決”に導く推進側の切り札だが、同時に「公益のためには少数が犠牲になっていいのか」という重い命題を地域に突きつける。事業認定は土地収用法に基づき、公益性のある事業に利用するために地権者の意に反して土地を取得したり使う場合の手続きを規定。認定手続きで、事業の公益性の有無が判断される。
◆公益性を判断
県市は、石木ダム建設と未買収地がある関連道路工事について申請。九州地方整備局は今月1日、申請書を東彼川棚町に送付。7日から公開(公告・縦覧)に入る。2週間の公開中に、利害関係者は賛否の意見書提出や公聴会開催の請求ができる。
反対意見が出た場合、学識経験者らで認定の可否を検討する第三者機関、社会資本整備審議会が開かれ、同整備局が認定の可否を決める。県によると申請から決定までおおむね半年から10カ月程度。不認定なら「事業推進は困難」(県)になるが、認定されれば国のお墨付きが得られる形だ。
認定された事業の予定地では、認定が効力を持つ間(最長4年間)、事業に影響を及ぼす大きな工事などはできない。この間に地権者が明け渡しに応じない場合、県市は県収用委員会に予定地の収用裁決を申請できる。
裁決申請を受けた県収用委は県市、反対地権者双方の意見を聞く。可能性があれば和解を勧めるが、話し合いの余地がないと判断すれば補償額を決めて収用を裁決。それでも地権者が土地を明け渡さないときは、行政代執行が実施されることになる。
◆不退転の決意
「事業認定申請は話し合いを進めるため」というのが県市の一貫した主張。県用地課は「過去の事例から、申請により地権者が話し合いに応じた事例が多い」とする。
なぜ、事業認定手続きによって話し合いが促進されるのか−との問いに、県土木部の鶴田孝廣次長は私見としつつ「不退転の決意が伝わる」と説明。認定後についても「必ず事業が実施されるということ、客観的に公益性があるということが地権者に分かることで話し合いができるようになる」とした。
同課によると1998〜2008年度、県が事業認定を受けた22件のうち、以後の協議で地権者の同意にこぎ着けたのは12件、収用裁決申請まで進んだのは10件。申請後の協議で解決した例はこのうち5件、残る5件は収用に至ったが行政代執行の例はない。
強制収用については、県収用委への裁決申請が必要な「別の手続き」と強調。「今後も反対地権者に話し合いを呼び掛け、理解を得るよう努める」とする。
◆「脅し」と批判
これに対し、反対派の受け止め方は百八十度違う。反対の地権者、住民でつくる石木ダム建設絶対反対同盟の岩下和雄さん(62)は「移転に応じなければ強制収用するぞという脅しだ」と申請を批判する。
事業認定手続きの中での公益性の判断についても、絶対反対同盟は「公聴会では短時間で双方の言い分を聞くだけ。本当にダムが必要かを論議する場ではない」と疑問視。推進、反対双方の有識者を入れた公開討論会などで必要性を一から議論すべきと訴えてきた。
これに県側は「これまで専門家の意見を聞き審議した結果、ダムが必要と意見集約した。あらためて聞くことは適当でない」と応じなかった。県は「公益性を一から審査する手続き」と公平さを強調するが、九州地方整備局が01年度以降受けた事業認定申請65件は、すべて認定されている。
絶対反対同盟を支援する長崎市の弁護士、魚住昭三氏は「事業認定と強制収用は手続き上、別だといっても事実上はつながっている」と指摘。絶対反対同盟は「県は認定されれば話し合いが進むというが、ダムが必要か否かの話し合いにはならない。強制収用のための事業認定であることは明白」と断じる。
◆新政権が鍵に
ただ、絶対反対同盟は全国のダム事業に厳しい姿勢を示している民主党政権への期待から、事業認定手続きの中の公聴会などには参加する意向だ。
前原誠司国交相は石木ダムなど全国143のダム事業について今月、継続の妥当性を検証する有識者会議を発足。国交省は10月、石木ダムなど国の補助で地方自治体が実施する補助ダム事業については「知事の判断を尊重する」と表明した。国直轄のダム事業と違い補助ダムは一方的に凍結できないため、同会議の基準に沿って各知事に見直しを要請する考えだとされる。
県市は「政権が代わってもダムの必要性は変わらない」と静観の立場。絶対反対同盟は「来年以降、政権の姿勢も明らかになる。その間事業を凍結し、半世紀もかかったダムが果たして今も必要なのか、あらためて議論すべきだ」とする。
ダム事業は、現地の自然や地域に多大な影響を及ぼす以上、やむを得ず必要な場合にだけ実施されるべきだ。しかし事業認定手続きの中で、そうした論議が深まるかどうかは疑問。同手続きが事業をさらに引き返せない状況へと導いていくことを、県民は理解しておく必要がある。
◎香川・内海ダム/紅葉の名所、市民団体「景観に打撃」 全国の反対派と、予算凍結を要求
寒霞渓山頂でダム事業の悪影響を指摘する山西代表(左)。ダムは写真中央付近に巨大な姿を現すという=香川県小豆島町
県外の補助ダム事業でも、賛否が分かれる中で自治体が事業推進を図っている事例がある。香川県小豆島の内海(うちのみ)ダム計画の現場を訪れた。
「ダムができれば景観は壊滅的打撃を受けるのに、知事は絶対やるという」。紅葉の名所として知られる香川県小豆島町の国立公園、寒霞渓(かんかけい)。11月初旬、山頂展望台で反対住民でつくる「寒霞渓の自然を守る連合会」の山西克明代表(70)が観光客にダム反対を訴えていた。
計画では、内海ダム再開発は寒霞渓から島南岸の内海湾に注ぐ別当川流域の洪水、渇水対策が目的。既存の内海ダムのすぐ下流に県と町が高さ42メートル、長さ423メートルの新ダムを建設。総貯水量は現状の7倍超の106万トン。寒霞渓のど真ん中に長大な堰堤(えんてい)とダム湖が姿を現すことになる。
県と町は1997年度に事業開始。反対住民が2001年に市民団体を組織。予定地内の木を所有する「立木トラスト」などの運動を展開している。用地買収が難航する中、県町は昨年3月に土地収用法に基づく事業認定を国土交通省四国地方整備局に申請。今年2月に事業認定された。
反対住民122人は7月、事業認定取り消しを求め高松地裁に提訴。しかし県は同月から本体建設工事の入札手続きに入ると同時に、強制収用に向け県収用委員会に裁決を申請。収用委の審理が続いている。
同県は「話し合いの努力をしてきたが、事業の進行に支障を来す恐れが出てきたため申請した」とする。だが山西代表は「必要かどうかでなく、ダムを造りたいだけ」と憤る。
内海ダムや石木ダムなど、全国11の補助ダム事業の反対派26団体は11月26日、連名で補助ダム事業の予算凍結を求める要望書を政府に提出。「ダム事業の見直し前に本体工事の入札や事業認定申請が『駆け込み的』に進められており、後戻りできない状況となってしまう」と指摘した。
要望を実施した団体の一つ「路木ダムを考える河浦住民の会」(熊本県天草市)の松本基督(もとすけ)さん(54)は「政府は補助ダムについて『知事の考えを尊重する』としたが、ダムに補助を出すのは(ダムに懐疑的な)政府の主張に合わない。凍結すべきだ」と話している。
2009年12月6日長崎新聞掲載
2011/12/11
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