長崎新聞 龍〜なが
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石木ダム計画を問う(5)=利水代替案編=
報道部 豊竹健二 佐世保支社 佐崎智章

 具体的な検討なく結論  海水淡水化費用符合せず

 佐世保市の水道水確保という利水の側面から石木ダムの代替案を考える場合、避けて通れないのがコスト面からの比較だ。ダム案にしても、ダム以外の案にしても水道事業は受益者負担という原則に照らせば、水源開発にかかったお金はそのまま市民が支払う水道料金に跳ね返る。そんな中で、市は「経済性から見て石木ダムがベストの選択」と強調。一方、反対派は「ダム以外の案も十分可能性がある」と指摘する。市の主張どおり本当にダムが安く、ダム以外は高くつくのか−。海水淡水化施設や市の利水関連整備の計画などを基に検証してみた。


石木ダムの利水設備と事業費
■100年間で比較

 海水淡水化施設は文字通り、海水を飲み水に変える施設。ダムとは違い、天候に左右されず、どんな渇水時でも水源を確保できる利点がある。本県では水源に乏しい離島などで、小規模施設が稼働。沖縄県には、佐世保市が新たに必要とする1日4万トンの水を作り出す施設があり、福岡県にも1日5万トンの施設がある。

 市は、沖縄県の施設をベースに淡水化施設と石木ダムにかかる費用を比較。ダムの寿命とされる100年間にかかる維持管理費と建設費を合算し、淡水化施設は約2816億円、石木ダムは約839億円−と試算している。市水道局の小川幸男副理事(水源対策担当)は「淡水化施設は電気代がかかり、耐用年数も20〜25年とダムに比べて短い。今の時点では石木ダムがベストの選択だ」と言う。

■根拠ない金額

 だが、この2816億円という額は、市が市内に建設した場合を具体的に試算した額ではなく、他県の例から「淡水化は高くつく」と結論づけているにすぎない。石木ダム建設が足踏み状態が続き、代替案を十分精査する時間があったのに、市は淡水化施設の具体的な検討をしてこなかった。

 ちなみに、市の比較案の妥当性はどうなのか。本県や市の資料では、沖縄県の施設の維持管理費は年間約16億円としている。しかし沖縄県によると、昨年度の実績は1日平均約1万5千トンの水を作り、維持管理費は年間約11億円だった。同県は、過去の実績でも「一番かかった年で約12億円」としており、本県や市の資料の金額と符合しない。

 石木ダムに反対する同市の市民団体「石木川守り隊」の松本義幸代表は、企画(2)「利水編」(8日付)で紹介したように市の水需要予測が過大とし、「淡水化施設を造るとしても1万トン分で十分」と話す。1万トンの施設ならば、沖縄県の維持管理費の実績に照らすと、年間最低5億円以上の費用が市の主張より安くなる。この差額を100年間で計算すると500億円以上の違いが出てくる。

 また沖縄県の施設の総事業費は347億円だが、本県の淡水化施設の製造業者によると、1日1万トンの水を作る施設は、プラントだけで約50億円。4万トンの施設で200億円程度という。水が家庭で使用できるようになるには、プラントに加え、建物や配水設備などが必要だが、石木ダムの代替案を調べている同市選出の末次精一県議は「1日3万トンの設備を造るとしても石木ダムの総事業費より安くなる」と主張する。

 加えて建設費が408億円かかった福岡の淡水化施設を見学した末次県議は「福岡では見学用スペースを確保するなど造りが豪華。佐世保市の場合はそんな施設はいらない」とし、総事業費は圧縮できるとする。

■かさむ電気代

 さらに末次県議は、コストを100年単位で比較すること自体が、そもそもおかしいと疑問を呈する。水需要予測は人口の増減など時々の社会情勢で変わるため「100年間も融通が利かないダムより、20年ごとに更新できる淡水化施設が現実に即して対応できる。淡水化技術は年々向上しており、20年後はより安い費用で更新できる」とする。

 ただ、今のところダムより淡水化施設がコストが安上がりになったという例は、全国でも見当たらない。最大の要因は、小川副理事が指摘するように電気代がかさむこと。福岡県の施設によると、年間の維持管理費の約半分は電気代。そうして造られる淡水化施設の水は1立方メートル当たり約210円。同じ福岡県でダムから真水を作ると同約120円で、淡水化施設の水が「高い水」なのは確かだ。

 石木ダム建設絶対反対同盟の松本好央さんは「今はエコの時代。太陽光発電や風力発電など自前の発電設備を備え対応すれば、コストは安くなるのではないか」と提案する。

■有効ではない

 海水淡水化施設以外はどうか。佐世保市が検証した主な代替案は地下ダム、地下水、石木ダム以外のダム。いずれも「有効ではない」と結論づけている。

 地下に壁を設けて水をせき止める地下ダムは、地層が硬いとして断念。地下水も市内各地で調査をしたが「利用可能な場所はない」とした。石木ダム以外のダムは、県が1995年までに県北地区の19カ所を調べ、このうち、さらに市が貯水能力が高い4カ所を再調査したが「適地はなかった」。

 石木ダム建設反対派には、1日1万トンの漏水をなくすなどの対策を取れば「そもそもダムも代替案もいらない」との意見もある。


◎事業費538億円 市負担も巨額

 県と佐世保市が東彼川棚町に建設を予定する石木ダム。建設コストはいったいいくらになり、市民には負担としてどう跳ね返ってくるのか。

■厳しい財政強調

 佐世保市水道局は、開会中の12月定例市議会に、水道料金を来年4月から19・68%アップする新たな改正案を提出した。値上げの理由は、浄水施設、水道管など老朽化した施設の改善、景気低迷や節水意識向上を背景とした料金減収による収支の悪化−など。料金改定がない場合、市は「2012年度に経営健全化団体になる」と厳しい財政事情を強調する。

 石木ダム関連では、現在の水道料金のうち約2%がダム事業に充てられている。9月の市議会企業経済委員会の質疑では、吉村敬一水道局長が「今後事業が進むことにより(ダムの負担金が水道関連予算の)かなりの比重を占めることになる」と答弁した。

■インフラ整備も

 県市が事業説明会などで示してきた石木ダム事業の総事業費は285億円とされる。負担割合は県が65%(うち国補助2分の1)、市が35%(同3分の1)。既に、県市合わせて総事業費の約46%に当たる132億円(国補助含む)を支出済み。

 総事業費のうち市の負担を、県市はこれまで100億円(同)としてきた。しかし、07年に市水道局が公表した計画によると、市民に水を供給するには、川棚町から水を運ぶ導水管や、新たに市の広田地区に整備する浄水場などのインフラ整備が必要で、設備投資に253億円が加算されるという。

 そうなると、利水面を含めた石木ダムの事業費は、総事業費とされる285億円に253億円を加えて538億円。うち市の負担は、市が説明する100億円に253億円を加えて353億円ということになる。

 こういった実情から14年度までの水道事業の財政計画では、市水道局の石木ダム建設関係の支出は、本年度1億8千万円だが、来年度は6億1千万円に急増。11年度は一気に20億8千万円に跳ね上がり、12年度も23億1千万円。そして13年度46億9千万円、14年度44億6千万円とさらに膨れ上がる。15年度以降も多額の支出が続くとみられる。

■試算していない

 100億円を大幅に超える巨額の市負担を、市は市民向けの説明会で示してこなかった。市水道局は「国からどのような補助金を受けるか選定している状況で金額は概算値。上がる可能性も下がる可能性もあり、精査していない数値が独り歩きすることを危惧(きぐ)している」とする。

 市の市民団体「石木川守り隊」の松本美智恵さんは「浄水場、導水管などをセットにしないと石木ダムは利水ダムとして機能しない。明らかに必要なものを、あえて市民に知らせないのはなぜ」と批判する。

 県が示している工程表通りに進めば、16年度末に石木ダムは完成する。完成後の水道料金は、受益者負担の原則から言えば、値上げになる可能性が高い。しかし、市水道局は、ダム完成に伴う水道料金値上げについて、こう説明する。

 「試算していない。供用開始予定の17年度から減価償却が始まり算入することになるが、料金改定の時期や値上げをするかどうかは分からない」


2009年11月29日長崎新聞掲載

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