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石木ダム計画を問う(4)=治水代替え案編=
報道部 豊竹健二

 流域全体で洪水調整を  県は3案示し「実現は困難」


県が示した川棚流域の治水代替案
 川棚川下流域が1時間雨量110ミリ、24時間雨量400ミリに達する100年に1度の大雨にも耐えられるよう計画されている石木ダム。治水面から見て、ダム以外の代替え案はないのか。県は2005年10月から約1年3カ月かけて審議した川棚川水系河川整備計画検討委員会で、石木ダムとともに▽遊水地▽放水路▽河川改修−の各案を示し、この3案は「社会性・経済性の面から実現は困難」と結論づけている。これに対し、ダム建設反対派は「きちんと議論すればダム以外の方法で洪水調節は十分に可能」と主張する。

 コスト比較

 まず、県が示した3案を見てみる。考え方は大きく二つに大別される。遊水地と放水路は、河川に流れ込んだ大雨をそのまま流さずに、貯留もしくは分散させて河川の流量をコントロールする方法。河川改修は、流れ込んだ大雨にも耐えられる能力を河川に持たせるという手法だ。

 具体的には、遊水地は川棚川と石木川合流点からやや上流の水田2カ所(計約36ヘクタール)を約5メートル掘り下げ水をためる案。プールのようなものでダムの変形判とも言える。放水路はダム建設予定地周辺の石木川から山にトンネルを掘るなどして直接大村湾に水を流すバイパスを2本通す案。いずれも川棚川の水位を下げる効果がある。河川改修は市街地が広がる川棚川下流域の川幅を大きく2区間で計約1・1キロにわたって5〜10メートル広げ、河川の水位を下げる案。

 3案とも100年に1度の大雨を想定して試算されており、遊水地は188億円、河川改修は148億円、放水路は216億円かかるとしている(図参照)。

 一方、石木ダムの総事業費は285億円。県河川課の西田正道課長は、治水面だけで見た石木ダムにかかる費用は約138億円で「コスト面で見てもダムが最も優れている」と強調するが、代替え案の148億〜216億円と単純比較できるかは微妙。

 西田課長は代替え3案について、遊水地は「広大な水田が消え地域の主産業の農業が衰退する」、河川改修は「家屋移転やJR橋、橋梁(きょうりょう)の大幅架け替えなどが必要で地域生活に影響する」、放水路は「高度な施工技術が必要で放流先となる大村湾沿岸への環境への影響も懸念される」とする。

 結論ありき

 県の説明でデメリットが多いように見える3案を、「石木ダムに誘導するための結論ありきの案」と指摘するのは、検討委の副委員長を務めた川内野善治氏と委員の坂本健吾氏。2人は石木ダム案を含めた4案の審議が終盤に入った06年11月、別の委員2人とともに全く別の治水案を検討委に提案した。川内野氏らの提案はひと言で言うと、流域全体で洪水を受け止める「総合治水」という考え方だ。

 川内野氏らの案の柱は、堤防補強と市街地の内水被害の防止。これに事業所や公共施設などにこまめに防災調整池を設置し雨水の一時貯留を充実させたり、森林保水力の強化、浸水が予想される地域での家屋建て替えの際の敷地のかさ上げ、ハザードマップづくりなどのソフト面の充実を複合的に組み合わせる。こうした取り組みを積み重ねることで、流域全体を洪水に強い地域に変えれば「石木ダムに替わりうる」と結論づけた。

 坂本氏は堤防補強について、検討委での県の説明をベースにすると堤防を約70センチかさ上げすれば「流下能力は100年に1度の洪水対応になる」と指摘。川内野氏も「川棚川下流域の川沿いには築堤できる場所がある」として現実的な案だと強調する。

 しかし県はこの堤防補強案に強く反論する。西田課長は「堤防は高くすればするほど、市街地にたまった内水が川にはけなくなる。さらに堤防が決壊した場合は川の水位が地面より高いため大量の水が市街地に流れ込み、甚大な被害が出る」として、河川行政の中では基本的に選択しない手法だとする。

 これに対し坂本氏は、県が治水対策の必要性を強調する際に持ち出す1990年の集中豪雨での浸水は内水被害が主原因だとして「内水がはけない状況は堤防補強以前の問題」と批判。「堤防補強の工法は日々進化しており、決壊しない強固な堤防を築けば対応はできるのではないか」とする。川内野氏も「ポンプ施設などを整備し、川棚川ではなく、直接大村湾に内水を吐き出すよう工夫すればいい」と話す。

 また坂本氏は、川棚川流域沿いの一部コメ農家と補償契約を結んだ上で、洪水時に河川から水田に水を引き込み、下流域の流量を減らす方法もあるのではないかと提案。「全国でもそうした事例がある。石木ダムありきで他の案を真剣に考えない県の姿勢はどうか」と言う。ただこれにも西田課長は「大雨が降っている状態では水田も内水被害で漬かっている状態。洪水をためられる容量になるのかどうか効果は疑わしい」とする。

 議論道半ば

 実は川内野氏らが提出した代替案は、検討委の中ではほとんど議論されていない。当時の野口正人委員長(元長崎大工学部教授)が提案を「どれだけ頑張って考えても4人の討議にすぎない」と一蹴(いっしゅう)したためだ。

 川内野、坂本両氏は県が近年、事業認定申請などの際に「検討委で専門家の意見を何度も聞き、結果、導き出されたのが石木ダム」と強調する場面に出くわすたび、首をひねるという。

 「専門家とは、県に都合のいい専門家。本格的な議論が尽くされたとは全く言えず、もう一度検討するべきだ」と主張する。


識者に聞く/今本博健・京都大名誉教授 ダムによらない治水が王道

今本博健氏
今本博健氏
 ダムに頼らない治水対策ができるのかどうか、河川工学が専門の今本博健京都大名誉教授に聞いた。

   ◇    ◇

 まずダムの治水機能には、本質的な欠陥があることを知ってほしい。それは(1)一定規模の大雨、洪水にしか対応できない。ダムの計画を上回る洪水には調節機能を失う(2)ダムが受け止める流域外の降雨による洪水には機能せず、効果が不確実である(3)ダムに土砂が堆積(たいせき)することで調節容量が減少し機能が劣化する−の3点だ。これらの理由からダムは治水の柱にはなり得ない。

 今の治水は(100年に1度あるかないかの大雨を想定し算出した最大流量の)基本高水までの洪水を、河道改修とダムによって安全に流下させようとしている。

 だが治水の使命は「いかなる大洪水に対しても住民の生命と財産を守る」ことだ。もちろん洪水は自然現象であるからどのような洪水を対象にしようと、いつかはそれを超える洪水が発生する。ダムによる治水に固執すれば、つねに計画を超える降雨におびえ続け、いつかは壊滅的な被害になる。

 このことは、日本ではすでに治水を目的に含むダムを900基近く造ったにもかかわらず、ダムで水害を防げた例が皆無と言えるほど少ないのに対して、ダムがありながら壊滅的な被害にあった例が多いことからも明らかである。しかもダム建設で環境破壊だけは着実に進む。本格的にダムに頼らない治水を実現しようとするのならば、治水のあり方を抜本的に見直すことが必要になってくる。

 これからの治水は、できるだけあふれないように河川で対応するとともに、あふれた場合の被害が、できるだけ軽減されるよう流域全体での対応を併用する必要がある。警戒避難システムを確立したり、越水に耐える堤防補強などを実施し壊滅的被害をまずは回避することが重要なのだ。流域全体で実行可能な対策を着実に積み上げ、治水安全度の向上に努める必要がある。

 この方式によっても基本高水にも耐える治水を実現でき、現在の法体系からも逸脱しない。いま問われているのは、ダムをどうするかではなく、治水のあり方をどうするかである。

 よりよい河川を次世代に引き継ぐには環境を破壊するダムをこれ以上造るべきではない。ダムによらない治水こそが王道である。計画規模の洪水までにしか機能しないダムを選択する愚は避けるべきであり、石木ダムもその例外ではない。


2009年11月22日長崎新聞掲載
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