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石木ダム建設問題
石木ダム計画を問う(2)=利水編=
佐世保支社・山口恭祐、佐崎智章
「需要予測過大」と批判
市は慢性的水不足強調
県と佐世保市が東彼川棚町に計画している石木ダムの最大の目的は、同市の慢性的な水不足解消。だが、市が新規水源の必要性の根拠としている将来の水需要予測について、妥当かどうかの議論が続いている。予測に基づき、ダム建設で新たに1日4万トンの確保が必要とする市。ダム不要と訴える側は「予測は過大で『ダムありき』の内容」と批判している。
原因は不安定水源
市水道局によると、同市は山と海が近い地形から、雨水がすぐに海に流れ込み、大きな川もない。水源は6カ所の小さなダムと川からの取水に頼っている。新たなダム建設の適地は市内にはないとしている。
市が水を取ることができる水源(水利権)は現在、1日10万5500トン。しかし、うち2万8500トンは雨が降らないと水が取れなくなる川の「不安定水源」。同局は不安定水源の比率が大きいことが、水不足がたびたび起きる最大の原因としている。
このため、隣町での石木ダム建設で、足りない水を補うことを考えた。石木ダム計画では、総貯水量548万トンのうち249万トンが市の使える水。ダム完成で市は川棚川で新たに1日最大4万トン、既存分を合わせ5万5千トンを取水する権利を持つことができる。
新たに4万トン目標
同局は将来、佐世保地区(合併前の旧佐世保市内)で1日11万7千トンの水が必要と予測。今も安定的に水が取れる1日7万7千トンに、ダム完成で4万トンが加われば、不安定水源を解消し、水洗化の進展などに伴う新規需要にも対応できるとする。市が使える貯水量は644万トン(75日分)から893万トン(105日分)に増えるという。
こうした見通しの根拠となっているのが、市水道局の水需要予測。日本水道協会がまとめた「水道施設設計指針」に沿い、2006年度までの実績を基に、計画目標の17年度の需要量を予測している。
水需要予測では、佐世保地区の市民1人1日当たりの生活用水の使用量(原単位)を17年度221リットルと予測。水を使う市民の数(給水人口)は06年度比約1万人減の約22万人と推定し、生活用水の必要量は1日約4万9千トンになる。これに業務・営業用水や工場用水、漏水などで失われる水量などを加えて1日平均給水量をはじき出している。
さらに同給水量を基に、年間で最も多く水が使われる日の給水量(1日最大給水量)を17年度1日11万1410トンと予測し、この1日最大給水量から、将来必要な1日の水量11万7千トンを導き出している。
市の計算を疑問視
反対派の反論は主に▽過去の実績に比べ水需要予測自体が過大▽漏水防止など市水道局の水源対策がずさん−の2点に集約される。
生活用水原単位は08年度までの12カ年、196〜188リットルの間で推移。にもかかわらず、予測では17年度221リットルと今後9カ年で大幅に増加することになっている。同様に過去、8万トン前後にとどまってきた1日平均給水量は17年度9万トン近くに。9万トン台を中心に推移してきた1日最大給水量も11万トン超に増える。
市水道局の小川幸男事業部副理事(水源対策担当)は「生活用水原単位は今より何リットル増加するかでなく、水道施設設計指針に沿い計算した結果。同規模他都市と比較すればむしろ低い数字」と適正さを強調。実績との差についても「渇水のたびに節水が進むので水の使用量が伸びていない。市民は必要な水を我慢しており、十分に確保されれば水を使う」と主張する。
市の利水計画を検証した荻野芳彦・大阪府立大名誉教授(農業水利)は「『計算』であれば『必要』とは別の問題。必要量は現状で十分で、人口減を考えると右肩上がりの水道行政は根本的に改められなければならない」と手厳しい。
佐世保市の「水問題を考える市民の会」で石木ダムを検証した宮野和徳さん(65)は、市がダム計画で1日11万トン超の確保を図る点を疑問視。「佐世保市で過去10年間に1日配水量が10万トンを超えたのはわずか2日だけ」と指摘する。
小川副理事は「水道事業者として、いつでも必要な水を供給する責任がある。1日最大給水量を基に計画することも指針に沿った対応」と譲らない。
有効率は最低水準
漏水防止をはじめとする市水道局の対策にも、厳しい目が向けられる。効率的な水の供給が進めば、それだけ必要な水の量が減り、ダム建設の根拠が揺らぐからだ。全国のダム反対運動のネットワーク組織、水源開発問題全国連絡会の遠藤保男共同代表は「佐世保の水道事業は効率が非常に悪い」と話す。
水道事業の効率性を示す有効率は、給水された水量のうち実際に各戸に届くなどして有効に利用された水量の割合。佐世保地区の有効率は約87%。佐世保市の住民団体「石木川守り隊」の調べでは07年度、給水人口10万人以上の215水道事業体の平均値は94%に上り、佐世保市の順位は200位以下と最低水準だ。
こうした現状を、小川副理事は「毎年度8億円ほどかけて老朽化した配水管の敷設替えを行っているが、すぐに(有効率を)改善するのは無理」と説明。水需要予測で、市は17年度の有効率を92%としており、実現すれば新たに4500トンの水が有効活用できるというが「4万トンには及ばない」とダムの必要性とは関係ない、との立場だ。
荻野さんや遠藤さん、「石木川守り隊」の松本義幸代表(62)らは、市の水需要予測に対する修正案を提示。いずれも過大な需要予測を見直し、事業の効率化を図れば、1日最大給水量でも8万〜9万トン程度で収まると結論づけている。
松本さんは「現状の安定水源に加え、不安定水源から少し取水すれば水は足りる。新規水源を確保するとしても1万トン程度で足り、石木ダムは必要ない」と語気を強める。一方の市側もダムの必要性を譲ることはなく、双方の論議は常に平行線のままだ。
しかし、市が将来必要とする水の量が、実際に今使っている水の量と懸け離れているのは確かだ。県や市の住民らに対する説明は、データや計算方法を省略し、結果だけ強調する傾向がある。市民による検証を容易にするため、データや計算方法を含めた詳細を積極的に公開する必要もありそうだ。
市民の声
認定申請疑問 必要ない 安定供給のため建設を
浴槽の水をポンプで洗濯機に移しながら「渇水の体験があるからこそ市民は節水に協力している」と話す枡田さん=佐世保市黒髪町
佐世保市の慢性的な水源不足の解消が目的の石木ダム計画。市民は渇水や石木ダムの問題をどう考えているのか。市民宅を訪ねた。
梅田町の前田稔子さん(70)は、洗濯機に備えつけのポンプを浴槽にのばし、残り湯をくみ上げるのが日課だ。庭の花木の水やりには米のとぎ汁を使うなど節水に取り組んでいる。
最近、石木ダムは必要ないのでは、と思うようになった。土地の強制収用につながる事業認定申請に疑問を持ったからだ。「古里がなくなるのは、だれでも嫌なこと」。また、時間断水を含む264日間の給水制限があった1994年の渇水について「不便だったが時間給水制限は過去20年であの年だけ。ダムしか方法はないのかしら」と首をかしげる。
一方、ダム建設に賛成する市生活学校連絡協議会の会長を務める黒髪町の枡田智登子さん(76)は、油が付いた食器は紙でふき取ってから洗うなどの節水対策を取っている。
ケーブルテレビで放送される貯水率情報は欠かさずチェック。80%台を切ると不安になる。「渇水の経験があるから節水している。住み慣れた場所を離れる反対地権者の方には申し訳ない気持ちはあるが、水の安定供給のためにはぜひお願いしたい」
2009年11月8日長崎新聞掲載
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