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石木ダム建設問題
石木ダム計画を問う(1)=治水編=
報道部・豊竹健二 東彼支局・中山雄一
100年に1度の洪水対応
「基本高水」に疑問の声も
県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設問題で、金子原二郎知事は10月、用地の強制収用に道を開く事業認定を申請すると表明。土地収用法に基づく事前説明会も始まり、新たな局面を迎えている。国の事業採択から34年。建設の是非をめぐる議論は、決着するどころか、むしろ河川の専門家や住民団体も加わって過熱している。そこで(1)治水 (2)利水(3)環境(4)代替え案(5)事業認定−の各テーマで、石木ダム計画の概要や課題を押さえ、賛成、反対双方の主張や論理をまとめる。「ダムは必要か不要か」。まずは、治水の側面から探った。
毎秒1400トン想定
県は、石木ダム建設の根拠として、水資源の確保を目指す佐世保市への水道水供給とともに、川棚町の市街地が広がる川棚川下流域への治水効果を挙げる。「石木ダムが完成すれば100年に1度の大雨が降っても川の水はあふれない」と県は主張。これに対し、建設反対派は「ダムの治水効果は極めて限定的。造る必要は全くない」と反論する。
県の計画で石木ダムは、建設予定地を流れる石木川と本流の川棚川が合流する地点からやや下流にある山道橋地点を基準点に、最大毎秒1400トンが流入する洪水を想定して設計されている。この1400トンは「基本高水」と呼ばれ、過去の雨量データ(表参照)などから川棚川に流れ込む流域平均の1時間雨量110ミリ、24時間雨量400ミリに達する100年に1度あるかないかの大雨を想定し、算出した値だ。
現在、山道橋地点で安全に水を流せる能力(流下能力)は毎秒1130トン。毎秒1400トンが流入すれば、毎秒270トンがあふれてしまう。そこで川棚川上流にある既存の野々川ダム(波佐見町)で毎秒80トンを貯水、石木ダムでは毎秒220トンの水をため、下流の市街地を洪水から防ぐのが県の治水計画だ(図1参照)。
県河川課の西田正道課長は「川棚町では河床の掘削や堤防のコンクリートブロック護岸化などの河川改修は上流部までほぼ完了している。100年に1度の大雨時に毎秒270トンの流量を低減させるには石木ダムに頼るしかない」と話す。
有益性小さい
一方、治水に詳しい今本博健京都大名誉教授は、県の資料を基に計画を分析。その結果、石木ダムを造り、川棚川の山道橋地点を安全に流れるよう洪水調節したとしても、同橋より下流の流下能力は約千トンしかない地点もあることから「下流のはんらんの危険性は解消されていない」と言う。
石木川についても、川棚川との合流点から上流900メートルまでは、石木ダムで洪水調節しても水量が川の流下能力を超えてしまう点を指摘。「100年に1度の大雨が降った場合、石木ダムではんらんが解消されるのは川棚川河口部と石木ダム直下だけ。川棚川河口部は、高潮によるはんらんの方が懸念されるし、石木ダム直下は民家が少ない。たとえダムができたとしても有益性は小さい」
河川の流量が、流下能力を超えないならダムはいらない。流下能力を超える雨水流入時にダムは治水効果を発揮するが、基本高水を超える洪水になった場合はどうか。
今本名誉教授は「100年に1度の大雨の規模を超えた豪雨にもし見舞われれば、石木ダムの治水効果はない。基本高水をベースにした一定限度の洪水だけを治水の対象にすることがそもそも間違っている。洪水が起きることもあるという厳然たる事実を踏まえ、堤防補強など流域全体で受け止めるようにする以外に道はない」と主張する。
加えて、反対地権者でつくる石木ダム建設絶対反対同盟のメンバーや今本名誉教授らは、石木ダムが実際に受け止める雨の流域面積が9・3平方キロメートルしかなく、川棚川全体の流域面積81・4平方キロメートルの11%にすぎない点も問題視。「石木ダムを造っても効果が小さいことは最初から分かっていたはず。それなのに主目的の利水に、治水を加えて多目的ダムとし、国の補助を大きくしようとした魂胆が透けて見える」とする。
こうした厳しい指摘に対し、西田課長は流下能力が不足する地点があることは認めた上で「不足地点は掘削などで対応可能。石木川についてもすでに河川改修に取り掛かっており、あふれる心配はない」と反論。100年に1度の想定を超える雨量が降った場合について、県石木ダム建設事務所建設課の牟田克敏専門幹は「ダムが満水になるまで洪水調節を行うことで川への流量を抑えることができる。その間の避難時間を確保できる点で石木ダムの効果はある」と強調する。
設定が「過大」
反対派住民からは、川棚川の基本高水自体が、そもそも高く設定されているのではないか、との疑問の声も上がっている。
前述したように基本高水は、ダムがない場合を仮定して、降った雨が川に流れていく最大の量。川幅や堤防の能力を向上させた場合でもなお、この基本高水が河川の流下能力を超えるとすれば、洪水を調節するためにダムが必要になってくる−というのが県側の論理。そうだとすれば、ダムの要不要は突き詰めれば基本高水をどう考えるかにかかってくる。
2005年10月から約1年3カ月かけて川棚川水系の今後20〜30年の具体的な整備計画を話し合った川棚川水系河川整備計画検討委員会。委員を務めた坂本健吾さんは検討委の中で、長野県の浅川ダムの事例を示しながら、石木ダムの基本高水の設定に疑問を呈した。
石木ダム直下での基本高水は毎秒280トンだが、坂本さんは他県のダムの文献などを調べ、流域に降った雨のうち何%が川に流れ込むのかを表す係数の値が「高いのではないか」と指摘する。
これに対し、西田課長は「恣意(しい)的な操作をしたことはなく、データに基づいた数値」と言う。
ただ、基本高水の設定をめぐっては全国各地のダムで論争が繰り広げられている。そんな中で前原誠司国土交通相は10月27日、群馬県の八ツ場ダム計画問題に絡み、基本高水を見直す考えを示した。前原国交相は古い計画の基本高水を前提とすることは「ダムを造り続ける方便だ」とも批判しており、国の方針が転換した場合は、石木ダム計画の基本高水の妥当性についても議論が沸き上がる可能性がある。
「2枚の写真」で論議
浸水対策扱わず宅地化
石木ダム計画を推進する県が、洪水対策の必要性を説明する際に持ち出すのが、1990年の集中豪雨時と2005年の平常時の川棚川下流域を比較した2枚の写真(図2参照)。県はこの90年の洪水について「川棚川の両岸から水があふれ、市街部を含めた浸水被害が発生した」とする。しかし、浸水原因については意見が分かれる。町中心部では複数の住民が「川から排水溝に逆流した水が広がった」「側溝から水が噴き出していた」などと証言。川棚川からあふれたのではなく、排水不良などの「内水被害」が主因との見方だ。
専門家は、川棚川とほぼ直角に交わり、こう配もきつい野口川の危険性も指摘する。今本名誉教授は「大雨が降れば、この川から市街地に浸水するのは当然。まず手を付けるべきは野口川だ」と警鐘を鳴らす。
2枚の写真からは、90年の浸水被害地に、今は住宅が立ち並んでいることが分かる。洪水後、農地の大半が宅地に転用され、住宅やアパートが整備された。この一帯を含む中組地区では90年に274だった世帯数が今年9月で458に増加。人口は1284人で町全体の約9%を占めるが、いつか再び一帯が洪水に見舞われる可能性は否定できない。この点を踏まえ、藤井健副知事は「90年よりさらに大きな水害被害のリスクを抱えている」と事業認定申請表明時に説明した。
しかし、都市計画法では町で3千平方メートル以上を開発する場合、県が許可を出す。町によると、この地区は洪水後の92年前後に複数の建設業者が県に開発を申請したが、許可の判断材料となる県や町の事前協議で浸水対策は扱われなかったという。反対派は「県が(農地転用や開発許可の時点などで)災害リスクを見過ごしながら、それをダム建設の根拠とするのはおかしい」と強く批判している。
2009年11月1日長崎新聞掲載
2011/12/11
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