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石木ダム建設問題
特 集
工程案公表に地権者反発
認可から33年、建設か白紙撤回か
県と佐世保市が東彼川棚町岩屋郷に計画する石木ダム事業は、国が認可して以来三十三年が経過した。今年、県市は着工時期を含む事業工程案を示すなど動きを活発化。一方、水没予定地に暮らす反対地権者十三世帯の姿勢は変わらず、むしろ反発を強めている。建設か、白紙撤回か−。これまでの動きをまとめる。(東彼支局・中山雄一)
県と佐世保市(手前)に石木ダム計画の白紙撤回を求める反対地権者ら=9月8日、川棚町の県石木ダム建設事務所
石木ダムは、同市の水道用水確保や川棚川の洪水調節、流水機能維持が目的。当初計画は総貯水容量六百七十四万トンだったが、同市が人口減予測に基づいて取水量を下方修正したため、昨年規模を縮小。総貯水量五百四十八万トン、堤高は五五・四メートルとなり、県内では総貯水量で長崎市の神浦ダム(六百八十四万トン)、大村市の萱瀬ダム(六百八十一万トン)に次ぐ規模だ。
総事業費は二百八十五億円。負担割合は県が65%(うち国補助50%)、市が35%(同34%)。二〇〇六年度までに、県市合わせて総事業費の約43%に当たる百二十三億五千万円(国補助含む)を支出済み。地権者百二十一世帯のうち九十九世帯と契約し、家屋移転対象世帯六十七戸のうち五十四戸が移転した。
強制測量の記憶
「ダム建設絶対反対」−。川棚町を南北に流れる川棚川の支流、石木川。上流へ向かうにつれ、真っ赤な文字で“決意”を示す看板が目に飛び込んでくる。
一九七五年、国の事業認可を受け、建設予定地の当時百二十二世帯が「石木ダム建設絶対反対同盟」を結成。八〇年、県などの説得もあり、建設を容認する「石木ダム反対対策協議会」(現在の石木ダム地域住民の会)と、「ダムから故郷を守る会」(現在の石木ダム絶対反対同盟)に分裂。その後も移転は進み、現在は十三世帯が反対の声を上げ続けている。
反対同盟の怒りの原点は、県が機動隊を導入して実施した強制測量にさかのぼる。一九八二年五月二十一日早朝。測量を目的に予定地入りした県職員ら約六十人を、絶対反対同盟(当時六十一世帯)の約二百人が座り込みで阻止。機動隊と激しく衝突した。
当時の反対行動には、予定地に住む小中学生約三十人も学校を集団休校して参加。当時、町立石木小二年だった松本好央さん(33)は「前進してくる機動隊が恐ろしかった。家をとられてしまうような悲しさは今でも忘れられない」と言葉少なに振り返る。
◇これまでの経緯◇
1972年
県が予備調査開始
75年
国が事業採択
地元122世帯が石木ダム建設絶対反対同盟を結成
82年
県の強制測量に地権者反発、阻止行動
95年
川棚町議会が建設推進を決議
97年
県、佐世保市と賛成団体でつくる補償交渉委員会が「損失補償基準協定書」に調印
99年
県と町、地元住民の3者が「代替宅地造成工事に関する覚書」に調印
2004年2月
家屋移転対象66戸のうち53戸(80%)と契約
9月
佐世保市が石木ダム計画取水量を6万トンから4万トンに下方修正
07年2月
総貯水容量19%減など石木ダム計画の規模縮小
11月
佐世保市の水道施設整備事業を再評価する3者委員会が、石木ダム事業継続を「妥当」と結論
08年7月
県が2016年を完成目標とする工程案を発表
9月
反対同盟が町内で大規模集会。県と佐世保市に白紙撤回を要望
川棚町議会が13年ぶりにダム建設推進を決議
佐世保市の利水
慢性的な水不足を抱える佐世保市。近年では七八年(十日間)と九四年(二百六十四日間)に時間給水制限、二〇〇五年(八日間)と〇七年(百三十四日間)に減圧給水制限を実施。渇水のたびに「石木ダム必要論」が高まる。
市水道局によると、合併前の旧佐世保市(以下佐世保地区)の水源は一日当たり十万五千五百トン。このうち、年間を通じて市内の各ダムなどから取水できる「安定水源」は七万七千トン。残りの二万八千五百トンは、天候などに左右される川や湧水(ゆうすい)からの「不安定水源」だ。
市は将来の利水計画で、一七年度の一日最大給水量を十一万千四百トンと試算。石木ダムで四万トンの新規安定水源を加え、計十一万七千トンを安定確保したい考え。
同地区の昨年度の給水人口は二十三万人で、一人当たりの一日の使用量は百九十三リットル(〇六年度)。利水計画では、一七年度の給水人口は二十二万二千人に減る一方、一人当たりの一日使用量は二百二十一リットルに増加するとみる。核家族化の進行や下水道整備による水使用量の増加などがその理由。さらに「安定水源確保により、今後の企業誘致や観光客増に対応できる」と将来のメリットを強調する。
石木ダム事業が進展しない中、これまで代替案として主に検討されたのは海水淡水化、地下ダム、地下水、その他のダムの四つ。しかし、同市水道事業の再評価委はいずれの案も費用や地形、地質の面から「不可能」と結論付けた。
代替地については、県が一九七一−九五年に全十九カ所を調査したが、いずれも「不適」。同市も貯水能力が高い四カ所を再調査して本年中に結果を出すが、県調査同様、その結果を議論する場は設けていない。
治水効果薄い?
四八年に県北を襲った集中豪雨で川棚川がはんらん。町内で死者十一人、床上浸水八百戸の被害が出た。さらに、九〇年七月の豪雨では、一時間に八三ミリ、二十四時間で三七五ミリを観測し、町内で九十七戸が床上浸水した。
県は一時間に九二ミリ、二十四時間で三二七ミリの降雨を「三十年に一度」発生する規模と設定。川棚川では、この規模の雨に備えた堤防補強や川幅拡張などの対策はほぼ完了している。一方、石木ダムは、一時間に一一〇ミリ、二十四時間で四〇〇ミリという「百年に一度」発生する規模の降雨対策に必要とされる。
しかし、県によると「百年に一度」の雨量で川棚川に流れ込むのは千四百トンだが、石木ダムはそのうち百九十トンを防ぐ程度。川棚川の流域面積の九分の一しかない石木川にダムを造ったところで、治水効果は薄いとの専門家の指摘もある。一方、県が学識経験者らを集めて設置した川棚川水系の整備検討委は昨年、河川改修や遊水地、放水路整備などと比較して「石木ダムが費用面で妥当」とした。
事業認定望む声
県は今年七月、二〇〇九年度から一六年度末まで八年間でのダム事業完了を目標とする工程案を公表。ダム本体の工事は一二年度から四年間。それまでに反対地権者が同意しない場合について、県石木ダム建設事務所は「今は考えていない。同意獲得へ努力する」とし、先行きは不透明だ。
工程案発表後、土地売却に応じた住民らでつくる「石木ダム対策協議会」(田村久二会長)は八月に金子知事、九月には朝長佐世保市長に対し、国へのダム計画の事業認定申請を急ぐよう要望した。
事業認定とは、土地収用法に基づいて公共事業に必要な用地を取得できる土地収用制度の手続き。国交相が事業認定すれば、県収用委員会が補償金額などを裁決し、強制収用が決まる。ただし、事業認定申請から収用委員会の採決までに事業者と地権者は任意交渉が継続できる。
同協議会の山田義弘さん(71)は水没予定地の地権者で、二〇〇一年に移転した。「事業認定に踏み切れば、反対地権者との話し合いにも進展があるはず。県市は苦渋の決断で事業に協力したわれわれの思いも尊重してほしい」と期待を掛ける。
続くにらみ合い
県石木ダム建設事務所の松尾弥太郎所長は「強制測量などで地権者に不信感を与えた点で、他のダム事業とは対応が異なる。まずは地権者と話し合いたい」と接触の可能性を探る。
一方、反対同盟は九月、町内で大規模な反対集会を開き、県に計画の白紙撤回を直訴するなど動きを活発化。「ダム問題は人生そのもの」と振り返るリーダー的存在の岩下和雄さん(61)は「計画を白紙撤回すれば協議に応じる。なぜ建設ありきの姿勢を変えられないのか」と力を込める。
三十年以上にわたり、もつれにもつれた公共事業をめぐって当事者同士のにらみ合いは続く。
2008年11月9日長崎新聞掲載
2011/12/11
報道プリズム 佐世保支社 中山雄一/工程案に疑問の声 示されぬ国の再検証
2011/11/29
県が工程案見直し 本体工事1年先送り
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