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「幾多の困難を乗り越え、歴史の一ページに立ち会うことができ感無量」。昨年十一月に開かれた諫早湾干拓事業の完工式。構想から半世紀に及ぶ懸案事業を仕上げた金子知事が、晴れやかな表情であいさつに立った。困難は乗り越えたはず−。だが、それから約七カ月後。開門を命じた二十七日の佐賀地裁判決はその楽観を打ち破った。 事業に異議を唱えてきた五十嵐敬喜・法政大教授(公共事業論)にとっても、判決は驚きだった。「事業完成後に損害賠償を認めることはあっても、見直しまでは踏み込まないのが従来の法的常識。その常識を覆す画期的な判決だ」 農水省は、有明海の漁場悪化と事業の因果関係が解明できないことを理由に、漁業者らが求める中・長期開門調査を回避。因果関係をめぐる争いが延々繰り広げられ、その間に事業は完成した。 だが判決は、因果関係の解明を困難にしているのは、排水門閉め切りの前のデータ不足にあると指摘。事業前に十分な調査をせず、さらに中・長期開門調査も拒んで「影響はない」と事業を推し進めてきた国の姿勢を痛烈に批判した。 「既成事実化は許さないという、行政への強烈なメッセージだ」。原告弁護団の堀良一事務局長は、判決の意義をこう強調。「これまで行政を追認してきた司法の在り方にも一石を投じた」と高く評価する。
さらに、現状のまま開門に踏み切れば急激な水流による堤防への影響、海底に堆積(たいせき)したヘドロの巻き上げなど逆のリスクが大きいと指摘。判決は開門に伴う防災対策工事のために三年間の猶予を設けたが、国は対策工事の経費を六百億円超と試算。営農への影響を食い止める対策工事も必要となる。 二千五百億円以上を投じた諫早湾干拓事業。「止まらない公共事業」の象徴とされた事業の在り方に、司法は警鐘を鳴らした。「方向転換のチャンスはあった。だが国は耳を貸さず、傷を深くした。なぜ司法が判断する前に、国会も行政も手を打てなかったのか」。五十嵐教授は嘆く。 (この企画は報道部・佐藤烈、諫早支局・河野隆之、福岡支社・向井真樹が担当しました)
2008年6月30日長崎新聞掲載
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