国営諫早湾干拓事業の工事差し止めを命じた佐賀地裁の決定を福岡高裁が覆した。規模縮小や目的変更を繰り返した巨大事業が再び動きだす。だが、事業の是非をめぐる戦いは、司法の場などで今後も続く。完成目標の二〇〇六年度を目前にして、事業はなおも迷走する様相を呈している。

再開する巨大事業
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 迷 走   「国との戦い まだ続く」


 十六日午前十一時すぎ。事業見直しを求めて福岡高裁前に集まった二百人もの漁業者、支援者が一瞬静まりかえった。伝えられた高裁決定は「仮処分の取り消し」。勝利を確信していた一同に無情な結果だった。南高有明町の漁業、宇土勉さん(42)は沈痛な表情でつぶやいた。「また振り出しに戻った。理解できない」

 「干拓事業は有明海の漁業被害と一定程度の因果関係が認められる」。佐賀地裁は昨年八月二十六日、漁業者が求めた工事差し止めの仮処分を決定。続いて一月十二日、同地裁は国が申し立てた仮処分への異議も却下。完成間近の国の巨大事業を約九カ月間ストップさせた。

 しかし、国は福岡高裁に保全抗告を申し立て、そして逆転。漁獲減に苦しむ漁業者には「不当決定」としか映らなかった。

 福岡高裁前で漁業者がショックに包まれているころ、干拓事業を推進する県庁にも高裁決定の内容が伝わった。県諫早湾干拓室は情報収集に追われながらも、ホッとした雰囲気が漂った。鶴田孝廣室長は「漁民の主張もある。干拓事業とともに有明海再生に取り組んでいかなければならない」と表情を引き締めた。

調整池と諫早湾
 事業の現場である九州農政局諫早湾干拓事務所では早速、新しい工事契約の準備に入った。渡辺巧次長は「われわれは工事を早く進めないといけない立場。段取りを急ぎたい」。

 高裁決定を受けて国は工事再開に突き進むが、漁業者側は徹底抗戦の構えを捨てていない。六月にも国に潮受け堤防の開門を義務付ける行政訴訟を佐賀地裁に起こす考えだ。今後、国の公害等調整委員会の原因裁定が出るほか、同地裁での差し止め請求の本訴も本格的な審理に入る。福岡高裁前で漁業者の一人はつぶやいた。「事業を止めるか、廃業するか。国との戦いはまだまだ続く」


【写真説明】差し止め決定取り消しで、近く工事が再開される見通しとなった諫早湾干拓事業。中央の北部排水門の左側が調整池、右側が諫早湾
2005年5月17日長崎新聞掲載


2005年諫早湾