<5・完>
自然共生  将来像は依然不透明

 「本事業を『自然と共生する環境創造型の農業農村整備事業』の先駆的な取り組みにしたい」

 諫早湾干拓事業に対する国営事業再評価(時のアセス)第三者委員会の答申を受けて、同事業を抜本的に見直し、規模縮小の考えを武部勤農相が表明した昨年八月二十八日の記者会見。大臣の口から「自然共生型公共事業」という耳慣れない言葉が飛び出した。

 会見から二カ月後、農水省が県などに提示した見直し案概要では、「環境への一層の配慮」の項目にこう記されていた。「調整池から旧干拓地に向けて、水域、湿地、干陸地、林帯、畑地の連続性を確保し、多様な生態系を形成するとともに、湿生植物などにより調整池の水質を確保する」

潮止め以降、諫早湾周辺ではカモ類の渡来数が増えるなど生態系に変化が見られる=諫早湾、1998年12月
 国内有数規模の干潟が残る有明海。それが五年前の潮受け堤防閉め切りを境に、諫早湾周辺の生態系に異変が起きた、と指摘する声がある。

 県版「レッドデータブック2001」に掲載されたムツゴロウ(絶滅危ぐII類)だけではない。例えば、諫早湾に特徴的に見られた渡り鳥のシギ・チドリ類。農水省の環境調査でも潮止め以降、渡来数は激減し、昨シーズンもほとんど確認されなかった。原因は分析できていないが、「餌となるゴカイが干潟消滅とともに姿を消したのが最大の要因」(同ブックで掲載種の選定委員を務めた日本野鳥の会県支部の馬田勝義さん)という見方がもっぱらだ。

 調整池の水質を見ても、有機物による汚れ度合いを示すCOD(化学的酸素要求量)平均値は二〇〇〇年度、一リットル当たり七・二―七・七ミリグラム。環境アセスの保全目標値(同五ミリグラム以下)を超える汚濁状態が続く。

 見直し案が目指す「農と緑の水辺空間の実現」とは、開発で自然が失われた場所に人為的に新たな自然をつくることにほかならない。佐藤正典・鹿児島大理学部助教授(環境生物学)は批判的だ。「諫早湾は、豊かな干潟生態系の原風景をとどめる貴重な場所だった。その機能を人工的に代替できるかのごとく考える国の発想はふそん」

 環境創造型事業へ転換で、国がうたう「多様な生態系の形成」「調整池の水質保全」が実現され、「宝の海」有明海の再生につながるのか。開門調査は始まったが、市民を交えた十分な議論もなく、その将来像は濁った調整池の水のように、不透明で先が見えない。

 (この連載は報道部・徳永英彦、下釜智、西村伸明、諫早支局・三浦祐二が担当しました)

2002年4月29日掲載


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