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「市街地洪水」は対象外 関係者すべての認識一致
諫早大水害と聞けば、だれもが、五百三十九人の犠牲者を出した一九五七年の本明川のはんらん、市街地の洪水を思い浮かべる。農水省の説明に、「これで悲惨な災害に二度と遭わずに済む」と安心した市民も多かったはず。だが、事業と洪水対策の関係は十分には説明されてこなかった。 洪 水 「干拓事業と市街地の洪水対策は全く関係ない」と言い切るのは関西学院大学の片寄俊秀教授。「諫早湾で、どのような事業を行おうとも、河口から一定の距離以上の市街地には防災効果は及ばない。そのことは科学の常識であるにもかかわらず、あたかも諫干事業が諫早大水害級の洪水対策であるかのように宣伝されてきた」と指摘する。日本地質学会会員の布袋厚さんも「効果は全くない」と次のように説明する。 河口から一定の距離で、川の水面の高さに対して潮の干満の影響が全く及ばなくなる地点が生じる。これを「水位の収れん」と呼ぶ。水位が収れんする地点は川の断面、流量などで決まる。本明川で洪水が起きた場合、水位が収れんするのは河口から二キロ。諫早大水害で多数の犠牲者が出た市街地はこれより上流だ。潮の干満の影響も、調整池の水位調節も、河口での水位変動という点では同じだから、市街地の洪水に対して調整池の水位調節は何の影響も及ぼさない。 諫早市が六三年に発行した諫早水害誌にも「計算によって洪水面を追跡したところ、いずれの場合も大体二キロメートル付近で一定水位に収れんすることが分かった」との記述がある。布袋さんは「諫早湾を閉め切っても市街地洪水対策には役立たないことを農水省は知っていたはず。にもかかわらず、効果があるかのようなイメージを振りまいてきた」と批判する。 ◇ ◇
こうした問題を、関係者はどう考えているのか。 農水省とは別に諫早市内で独自の防災事業を進める国土交通省は「諫干事業が市街地防災を目的にしているとは考えていない」と言う。 同省長崎工事事務所の野坂正・調査第一課長は「諫早湾の調整池の存在が、市街地の洪水被害防止にまで効果を及ぼすことはないだろう。諫早大水害級の洪水から市街地を守るには河川の治水対策が最も重要。本省は河川の河道掘削や堤防強化、本明川上流のダム建設計画をこれまで通り推進していく方針」と語る。 諫早湾干拓推進住民協議会の山崎繁喜会長は「市街地の洪水対策は別問題。諫干で市街地の防災までできるとは言っていない」と話す。だが、会長は「諫干事業を中止すれば人命、財産が失われる」と力説してきた。「それは潮受け堤防や調整池のおかげで、本明川がはんらんしても低平地の住民は安心して眠れるという意味。市街地の防災対策は諫干とは別に必要だ」 「人命を守るために諫干は継続すべき」と強調してきた吉次邦夫諫早市長も「それは大水害でも、潮受け堤防があるので低平地は高潮の影響を受けずに済むとの意味。市街地は河川改修、ダム建設が必要」。 事業主体の農水省も同じ見解。九州農政局諫早湾干拓事務所の横井續・調査設計課長は「諫干の防災機能とは低平地の排水促進と高潮被害防止。河川の洪水対策は国土交通省の所管」と言う。 洪水対策について、事業推進派も見直し派も「市街地洪水は別問題」の認識で一致した。それでも洪水問題が、諫干論争の中で最も緊張を高めるテーマであり続けたのは、なぜか。 片寄教授は「農水省は諫干事業への批判を弱めるために、枕(まくら)言葉のように諫早大水害を持ち出し、人命被害の悲惨なイメージを利用して事業の防災効果をPRしてきた。ことが防災だけに、論争は県民の間に無用の緊張関係をもたらした。その責任は重い」と話している。 2001年3月6日掲載
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