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状況証拠そろう 研究者 影響判断できぬ 農水省
元日朝、有明海の福岡、佐賀、熊本各県の漁船約二百隻が大挙して諫早湾に押し寄せた。潮受け堤防排水門前に集結すると、「水門を開けろ」「宝の海を返せ」と叫び続けた。
「宝の海」返せ
有明海の漁業不振と諫早湾干拓事業との間に因果関係があるのか否か。この問題に有明海漁民の関心が集まり始めた。背景には、有明海の漁業全体が大きな危機に直面している現実がある。資源減少に見舞われているのはタイラギだけではない。アゲマキも姿を消し、ノリやアサリの養殖も赤潮で打撃を受けた。クチゾコ、ハゼクチなど多彩な魚種も軒並み減っている。 「宝の海」と呼ばれた有明海の生産力の急激な低下に、漁民たちは「何が原因か」と戸惑い、数々の疑問の徹底検証を求めている。諫干事業もその一つ、というわけだ。 激変の引き金 有明海の異変と諫干との関連について、「因果関係がある。それを裏付ける状況証拠はそろっている」と話すのは長崎大学教育学部の東幹夫教授(生物学)。「有明海の環境悪化の原因は複合的なもので、諫干だけが原因と言うつもりはない。だが、多くの原因の中で、諫干こそが最大の原因だ、とは言える」東教授の言う“状況証拠”とは次のような現象だ。 第一に、諫早湾周辺の海底のゴカイや貝など底生生物の生息密度が、閉め切り以降、急速に低下しており、当然、タイラギの生態にも重大な影響が及んでいると推測できること。 東教授は諫早湾から有明海奥部にかけて底生生物調査を続けている。このうち湾周辺の定点で採取した平均個体数の推移を見ると、閉め切り直後の一九九七年六月は一平方メートル当たり一万四千二百八十五あったが、三年後の昨年六月は四千二百六十四で、七割減に落ち込んだ。「予想を超える環境激変。堤防建設で湾の潮流が遅くなったのが原因だろう」 第二に、タイラギ漁獲量が減り始めた時期(九一年)と、潮受け堤防建設工事(八九年着工、九九年完成)、それに伴う湾口海域での海砂採取(九一年から九七年まで)が、時期的に符合していること。 第三に、過去に例のない有明海での赤潮多発という現象が、諫早湾閉め切り(九七年四月)以降に観測されるようになったこと。 東教授は「筑後大ぜき、熊本新港の建設など多くの要因が重なって有明海の環境はかなり悪化していた。そうした中で行われた諫早湾閉め切りは、環境激変の引き金となる大きなインパクトがあったに違いない」と指摘する。 これに対し、九州農政局の松永浩二・建設部設計課事業調整室長は「潮受け堤防外側で実施した水質調査で、閉め切り前後に明確な差が認められなかった。したがってタイラギの漁獲減少、有明海全体の漁業不振いずれも、諫早湾干拓事業が影響を及ぼしているとは判断できない」として、因果関係を否定する。 だが、この見解に対しても東教授は「農水省の環境モニタリングは堤防周辺に限られた調査で、そのようなデータを基に“有明海全体の漁業に影響はない”とは言えないはず」と批判する。 高まるうねり 漁民、研究者と農水省の議論はかみ合わない。だが、その間にも有明海の漁業不振は深刻化の一途をたどる。不安を抱く漁民の目は勢い、最も目につく諫早湾に注がれる。国が漁民の不安にどうこたえていくのか。重い課題を漂わせながら、有明海のうねりは高まりつつある。(おわり)2001年1月18日掲載
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