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長崎新聞120年の歩み
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2・西南戦争と新聞
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西南戦争と新聞
戦況を刻々と報道
認識深める大きな機会に 風説飛び交い危うさも
本木昌造が一八六八(慶応四)年に創刊したわが国初の地方新聞「崎陽雑報」は九カ月ほどで廃刊となったが、本木は七三(明治六)年に「長崎新聞」(現在の長崎新聞とは無関係)を創刊。これも一年足らずで廃刊となったものの、七五(明治八)年に隔日刊で復刊した。半紙型の和紙から復刊後は四六判の西洋紙八ページ建てに変わり、政府官報、県の通達、投稿欄、雑報、広告などが主な内容だった。
■西道仙を主筆に
編集長には熊本・天草出身の医師で漢学者だった西道仙(一八三〇−一九一三年)が就任した。西は学問を志す若者のため寄宿舎・瓊林学館を設立するなど、教育者としても活躍する一方、「笑談会」を結成して演説、討論などの会合を頻繁に開催。この「笑談会」は九州初の演説会といわれる。
西が新聞や演説会で訴えたことは、同業者の団結、道路改良、公園の開設、鉄道や航路の開設などの身近な問題から、国会設置、外交にまで及んだ。
「長崎新聞」は七六(明治九)年一月、地方紙から九州のブロック紙への飛躍、進出を目指し「西海新聞」と改題。当時、全国の新聞・雑誌を相撲の番付になぞらえた「日本全国新聞雑誌見立評判」で「西海新聞」は、「報知新聞」「朝野新聞」といった在京の有力新聞に次ぐ「前頭」に名を連ねている。
西は引き続き主筆としてとどまり、国会開設を唱えて論陣を張り、その連載が七日にも及ぶことがあった。それが明治政府批判の言論活動を禁じた新聞紙条例に触れ、禁固一月の刑に処せられた。その後、七七(明治十)年五月に「西海新聞」を去り、独立して九州初の日刊紙「長崎自由新聞」を創刊。だがわずか半年ほどで廃刊となった。背景には同年、九州全土を戦乱に巻き込んだ「西南戦争」があった。
■西郷隆盛に傾倒
明治政府軍と、西郷隆盛を盟主とした薩軍が現在の熊本、大分、宮崎、鹿児島の四県を戦場に約七カ月にわたって繰り広げた「西南戦争」は、国内最後の内戦であり、日本が幕末から明治初頭の混乱期を経て真の近代国家へ向かう大きな転機となった。特に熊本県の田原坂、吉次峠の戦闘では政府軍だけで約二千五百人の死者を出す激戦だった。
西はかねてから西郷に傾倒。「長崎自由新聞」を創刊したのも西南戦争のニュースを掲載するのが目的だったといわれている。実際に同年七月二十一日付紙面には「征薩日記第一号」と題した記事を掲載。西南戦争が起きるきっかけとなった、明治政府が弾薬類を鹿児島から秘密裏に大阪に輸送するため三菱汽船の赤龍丸を派遣、搬出しようとしたことや、薩軍の動きなどが詳しく記述されている。
■従軍カメラマン
西南戦争で活躍した三人の写真師がいる。一人はわが国写真界の祖として知られる上野彦馬。ほかの二人は上野の弟子で当時、熊本で写真館を営んでいた冨重利平と中島寛道。それぞれ、今日でいう従軍カメラマンの“はしり”として戦跡を撮影して回った。
熊本城に立てこもる政府軍と、包囲する薩軍との間で攻防戦が続いていた三月二十六日、大きな荷を積んだ一行が長崎をたった。征討参軍(司令官)川村純義の命令を受けた長崎県令北島秀朝に依頼された上野の撮影隊だった。
上野のほか、撮影助手の弟子二人、暗幕や湿板写真機などの機材を運ぶ人足八人を連れた一行は、長崎・網場から海路、熊本に渡った。薩軍はすでに田原坂の戦いの後、宮崎県方面に敗走していたが、戦場となった高瀬、山鹿、田原坂では、民家の土蔵の壁は弾痕だらけ、山肌は砲弾でえぐられるなど戦闘のつめ跡が生々しく残っていた。
上野は二百枚を超える戦跡写真を撮影したが、兵士の遺体は一つも写っていない。それは死者を冒涜(ぼうとく)したくないという思いからだったという。
一行は四月二十五日には長崎にいったん帰るが、秋には鹿児島を回り、城山や甲突川周辺の防塁も写真に収める。これらの写真は作戦資料として参謀本部に保管された。また、上野の撮影隊とは別に、冨重らも熊本鎮台に依頼され、熊本城の籠城(ろうじょう)戦や各地の戦跡を撮影している。
■国民の関心高く
西南戦争への国民の関心は高く、在京の新聞各社もこぞって腕利きの記者を派遣し、報道合戦を繰り広げた。東京日日新聞の福地源一郎(福地桜痴)、久保田貫一、南波正康、郵便報知新聞の犬養毅(後に首相。五・一五事件で暗殺される)は実際に戦地へ赴き、戦況を伝えた。このうち、犬養が戦地に着いたのは三月中旬。田原坂の戦いの最中だった。
当時の長崎も政府軍の重要拠点としての役割を担っていた。兵員、軍需物資の輸送・中継地だったほか、戦時仮病院も置かれ、戦場から運ばれる負傷者の治療に当たった。戦後処理のための九州臨時裁判所が開設され、戦犯の裁判も行われた。西郷らの決起に協力した鹿児島県令の大山綱良も長崎で処刑されている。
西南戦争は、社会が新聞の果たす役割について認識を深める大きな機会となった。半面、通信手段の不備などで正確な情報が伝わらないことも多く、さまざまな風説が飛び交い、新聞が逆にこれらの誤った情報を伝えることにもなりかねないという危うい側面もあった。
<西南戦争に関する年表>
上野彦馬が撮影した西南戦争の戦跡写真「田原村土蔵の弾痕跡」=日本大学芸術学部蔵
「長崎新聞」を改題した「西海新聞」(コピー)=長崎歴史文化博物館提供
西道仙が創刊した九州初の日刊紙「長崎自由新聞」の第1号(コピー)=長崎歴史文化博物館提供
◆メモ
上野彦馬(うえの・ひこま、一八三八−一九〇四年)
幕末期から明治期にかけて活躍した写真家。「わが国写真界の祖」といわれる。
長崎の蘭学(らんがく)者、上野俊之丞の次男として生まれ、オランダ軍医ポンペが教師を務めた医学伝習所(現在の長崎大医学部)で化学を学んだ。このとき知った写真術の研究に努め、一八六二(文久二)年、長崎に「上野撮影局」を開業。坂本龍馬や高杉晋作ら幕末の志士、明治期の高官、外国要人の肖像写真を数多く残している。
このほか、七四(明治七)年には金星の太陽面通過の観測写真(日本初の天体写真)、七七(明治十)年には西南戦争の戦跡を撮影(従軍カメラマンのはしり)するなど、わが国の写真術の確立、発展に貢献した。
2008年7月12日長崎新聞掲載
<20完> 未来へ(2009年12月29日)
<19> 「平成」の幕開け(2009年12月12日)
<18> 昭和から平成へ(2009年11月14日)
<17> 出島から茂里町へ(2009年10月10日)
<16> 一県一紙へ(2009年9月12日)
<15> 4紙分離と朝鮮戦争(2009年8月8日)
<14> 戦後混乱期と新聞(2009年7月11日)
<13> 終戦前後の新聞(2009年6月13日)
<12> 戦時下の新聞(2009年5月9日)
<11> 世界大恐慌とテロ(2009年4月11日)
<10> 昭和初頭の長崎日日新聞<下>(2009年3月14日)
<9> 昭和初頭の長崎日日新聞<上>(2009年2月14日)
<8> 大正時代と新聞<下>(2009年1月10日)
<7> 大正時代と新聞<上>(2008年12月13日)
<6> 「明治」から「大正」へ(2008年11月8日)
<5> 「長崎新報」不敬事件(2008年10月11日)
<4> 日清・日露戦争と新聞(2008年9月13日)
<3> 自由民権運動と新聞(2008年8月9日)
<2> 西南戦争と新聞(2008年7月12日)
<1> 揺籃期(2008年6月14日)
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