報道プリズム/被爆者アンケートを振り返る
核廃絶阻む壁に憤り 米国依存の政府批判

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反戦反核の願い、核保有国や日本政府へのいら立ちなどが切々と記された被爆者アンケートの用紙
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長崎新聞社は、核兵器廃絶の可能性や被爆体験の継承などに関し、7〜8月に被爆者200人にアンケートを実施。102人が回答し、8月9日付紙面に結果を掲載した。手書きやワープロで思いをびっしりと記して返信した被爆者も少なくなかったが、紙面では十分紹介できなかった。項目を絞り、あらためてまとめた。
本年度前半は、4月に米国が核拡散防止条約(NPT)を順守する非核保有国に限り核攻撃しない原則を盛り込んだ新核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」を発表し、米ロが新たな戦略核兵器削減の条約(新START)に調印。核安全保障サミットでは、核テロ防止へ向け核物質管理のコミュニケを採択した。核軍縮・不拡散への期待が高まる中、5月にNPT再検討会議が国連本部で開かれ、合意文書が採択される一方、核保有国の抵抗で核廃絶の具体的道筋の設定に至らなかった。日本政府の首脳は出席せず、その後、日印原子力協定の交渉に入った。被爆者アンケートは、このような状況下で実施した。
■大国の姿勢
8月9日付1面に掲載した「核廃絶『できない』4割」という結果は、NPT再検討会議から間がなかったという時期的な影響もあったとみられる。核兵器廃絶が不可能だとする理由を見ると、決して失望やあきらめではなく、核廃絶を阻む「壁」への強い憤りが込められていた。核廃絶に踏み出さない大国へのいら立ちや、大国の姿勢が核廃絶を不可能にしているという指摘が目立った。
「国連安保理だけで特権を握り締め、自国に不利なことは拒否権を行使し、重要な議題も真剣には話し合われていない。貧しい国はいつまでも貧しいまま。貧しい国は核兵器による威嚇で富を得ようとさえする」(80歳男性)「大国が核を持っている以上、現実は厳しい。国の防衛上の建前として核を抑止剤として考えている。ものすごい努力がいる」(77歳男性)−など冷静な視点と怒りが伝わってくる。
■事実上容認
「日本政府は被爆国として核兵器廃絶に向けた役割を果たしていると思うか」という設問では「いいえ」が37%で最多。「はい」26%、「分からない」29%。役割を果たしていないとする理由は、NPT再検討会議への首脳欠席、日印原子力協定交渉、非核三原則に対する姿勢への批判が多かった。
「日印原子力協定交渉は核廃絶の理念を放棄し、原子力で金もうけを企図していること。被爆者への冒涜(ぼうとく)でもある。非核三原則の法制化をかたくなに拒む歴代政府の真意が透けて見える」(73歳男性)「歴代政府は菅政権まで米国の核の傘による核抑止力への依存を安全保障の基本に掲げているから。核廃絶と言いながら米国の核保有を事実上容認・利用している。米国にものを言えない外交姿勢こそ問われなければならない」(73歳男性)−など被爆国を名乗りながら、米国と核に依存し続ける政府の姿勢を痛烈に批判している。
■継承の機会
被爆者の高齢化が進む中、被爆体験の継承が大きな課題になっている。「最近、被爆当時の体験を家族や知人、若者に話しましたか」との問いに「はい」と答えた人は85%を占め「いいえ」は13%だった。
話していない理由は「話すチャンスがない」(71歳女性ほか)など伝える意志はあっても機会がないことや「語り部のお誘いもあったが、思い出したくないので断った。話してもあの様子は想像も付かないと思う」(81歳女性)など。「近所の人に話したことはあったが、話が通じないし病院代はただで、お金までもらってと言われたことが再三あり、なるべく話さないことにしている」(80歳女性)と被爆者の周囲の無理解による継承の難しさを吐露する回答もあった。
語り継ぐ機会の一層の創出、聞く側が被爆証言をより深く理解する態勢をさらに整える視点も私たちに求められている。
◎アンケート方法 本紙連載の聞き書きシリーズ「忘られぬあの日−私の被爆ノート」で過去に証言を掲載した200人を抽出。郵送方式で実施し、102人(51%)から回答があった。設問は▽最近、被爆当時の体験を家族や知人、若者に話したか▽次世代にどんなことを伝えたいか▽核兵器廃絶は可能だと思うか▽日本政府は被爆国として核兵器廃絶に向けた役割を果たしていると思うか▽被爆65年を迎えて今思うこと−の5問。うち3問は2〜3の選択肢から一つを選び、回答理由など記述欄を設けた。残る2問は記述式。
◎アンケートの回答から
●核兵器廃絶が不可能だと思う理由
▽世界の国々が核を抑止力に使ううちは無理(80歳女性)
▽核保有国が核を削減して最後の一発になったとき、それを廃棄できるかと考えると恐らくできない。敵国を信頼していないから(71歳男性)
▽核保有国は自国の権威維持と優位を保つため他国に率先して廃棄することはしない(84歳男性)
▽人間社会の思想の大転換がない限りできない(82歳男性)
▽国同士が我欲に絡み、相手との信頼感が薄い間は何年たってもできない。テロ国家が持つことになったら核の力を見せつけるのではないか(79歳男性)
▽核を持っている国が全廃しなければどうしようもない(76歳男性)
▽核兵器を唯一使用した米国人は原爆を容認している。原爆の恐ろしさを知らないから(78歳男性)
▽国連の統制力が弱いため(87歳女性)
▽他の国が戦争をしているために難しい(70歳男性)
▽日本の中でも核の真の恐ろしさを知らぬ人が多いから(81歳男性)
▽世界各国で競って研究を進めているから(86歳男性)
▽核廃絶を唱えながら抑止力との理由で核を持ち続けることがおかしい。無理(79歳)
▽アメリカが廃絶しないから(77歳男性)
▽核保有国が一つの心になるだろうか(82歳男性)
▽聞く耳を持たない国がある限り絶対に不可能(70歳男性)
▽核を持つ国々の思惑があるから(72歳男性)
▽核保有国が自ら廃棄しない限り、説得力がない(77歳男性)
▽世界の大国が保持しているから(80歳女性)
▽各国に自国だけを守るエゴがある。核廃絶と言いながら通常の戦争は認めている(78歳男性)
▽世界では抑止力として最大の力があると認識されている(73歳男性)
▽核保有国は外交にも有利との考え方が強く、説得できるとは考えられない(72歳女性)
▽自国が他国より強くなろうと思っているから(78歳)
▽核の怖さ悲惨さ無情さを知らない人が多いし、被爆県としての対策も具体的にない。国を挙げ県を挙げて核廃絶を叫ぶべきだ(82歳女性)
●日本政府が核廃絶の役割を果たしていないと思う理由
▽インドへの原子力支援など核廃絶と真逆のことをやっている。日本はプルトニウムを大量保有し、ミサイル技術も世界トップクラス。核兵器保有国に近い状況(71歳男性)
▽与野党の争いに明け暮れ、この問題は少々忘れられている感じ(81歳女性)
▽非核三原則を無視し、NPT未加盟のインドに核の知識を売り込むようでは役割を果たしているとは言えない(80歳男性)
▽外交面ですべて弱腰。強く出る勇気がほしい(82歳男性)
▽本気でやる気があるのか疑問。核兵器を積んだ艦船のチェックさえ怠ってきた。あの惨状を体験しただけに悔しい(74歳男性)
▽世界をリードする働きが非常に薄い(81歳男性)
▽米国の核が持ち込まれているから(77歳男性)
▽日本政府はお金もうけのことばかり。核廃絶のことなんか真剣に考えていない(77歳女性)
▽核の持ち込みを見逃している(79歳男性)
▽政府が今混迷の状態で、役割を果たすには程遠い(80歳男性)
▽NPT会議に政府から出席したのは外務副大臣だけ。唯一の被爆国でありながらむなしい(71歳女性)
▽日印原子力協定交渉に驚いている(80歳女性)
▽沖縄返還と引き換えに核持ち込みの密約があったことが明らかになっているのに、決然とした態度を示していない(80歳男性)
▽核の傘に依存し米国の軍事力に協力している(69歳男性)
▽いまだに基地があるから(83歳男性)
▽米艦船入港の際、核兵器を持ち込んでいると思うが、調べることができない(69歳男性)
▽日本政府として間違っていたことは素直に謝り、原爆投下国の米国には毅然(きぜん)とした態度で対処してほしい(71歳男性)
●最近、被爆当時の体験を家族や知人、若者に話していない理由
▽孤独で周囲に話す人がいない。話しても、実感がない人は上の空で聞き流す(78歳女性)
▽妻以外の家族に話す機会がなく、自分のことはさほど話したくない(82歳男性)
▽長男が高校3年の18歳で骨髄性白血病と診断され、翌年に死亡。その時期に家族には話したが、最近は思い出させたくないので話さない(81歳男性)
▽75歳を過ぎ、体調も思わしくない状態では、通院以外に人と接することもない(79歳)
▽若い人と話す機会がない(81歳男性)
▽思い出すのが怖い(80歳女性)
▽特に体験を話したい人がいない(73歳男性)
2010年9月12日長崎新聞掲載
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