被爆地ナガサキから 平和の声発信しよう
 21日から地球市民集会

 国内外の非政府組織(NGO)や軍縮問題の専門家らが核兵器廃絶の道を探る国際会議「第三回核兵器廃絶−地球市民集会ナガサキ」が二十一−二十三日、長崎市内で開かれる。二〇〇〇年、〇三年に続く開催で、地球市民の連携をあらためて誓う。昨年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の失敗やイランの核開発疑惑に加え、九日には北朝鮮が核実験を実施したと発表。国際情勢は被爆地の思いに逆行し、核拡散に向かっているように見える。地球市民集会を前に、こうした状況を探る。(報道部・小槻憲吾)

国際情勢は核拡散へ
■実験を「実施」


3日間で延べ約6800人が参加した「第2回核兵器廃絶−地球市民集会ナガサキ」=2003年11月24日、長崎市平和会館
 十月三日、北朝鮮は「核実験を実施する」と表明。その六日後、国際社会の反対を押し切って、長崎に投下された原爆と同じプルトニウム型による核実験を「実施」した。日本政府はまだ公式に核実験を確認していないが、事実ならばNPT体制上の核保有国である米国、英国、中国、ロシア、フランスの五カ国、さらに事実上の核保有国のインド、パキスタンに次ぐ八カ国目の核実験国となる。

 北朝鮮は一九八六年一月、核を製造するための黒鉛炉の運転を開始。九四年十月、米朝枠組み合意を受け黒鉛炉の運転を停止したが、二〇〇三年三月にNPTからの脱退を宣言、再び黒鉛炉を起動させた。〇五年二月には核兵器保有を宣言。今年七月にはミサイル七発を発射させ、北東アジアに緊張が走った。

 そして核実験−。地球市民集会実行委員長の土山秀夫元長崎大学長は「国連安全保障理事会は制裁決議を採択したが、北朝鮮を追い詰めて事態を泥沼化させるだけだ。日本、韓国、北朝鮮、中国、ロシア、米国の六カ国協議で北東アジアの非核地帯を構築することが解決につながる」と指摘する。

■疑惑国が再開


核兵器廃絶に向け子どもたちも参加した第2回地球市民集会の開会集会=2003年11月22日、長崎ブリックホール
 北朝鮮とともに核開発疑惑国として挙げられているイランが〇六年一月、本格的なウラン濃縮活動を再開した。イランに石油を依存している欧州各国が、金融制裁に踏み切ろうとする米国を押しとどめつつ、イランに核開発の停止を求めたが、イランは独自の核燃料サイクルの構築に固執する方針を堅持。米国だけでなく、欧州も金融制裁を検討する強硬な構えを見せている。

 北朝鮮やイランの核開発には「パキスタンの核開発の父」アブドル・カディール・カーン博士の核ネットワーク、いわゆる「核の闇市場」が背景にあるとされる。両国は非核保有国に原子力の平和利用の権利を認めているNPT体制を利用し、核兵器製造に直結する濃縮ウランのような核物質や原子力関連機器・技術を“平和利用”として不正輸出入していた。

 七四年のインドの核実験を機に、同国とパキスタンは核開発競争を本格化。両国は九八年、相次いで核実験を実施し、国際社会の強い非難を浴びた。米国はインドとパキスタンに経済制裁を発動した。

 しかし、米国は〇一年九月の米中枢同時テロ後、「テロとの闘い」を掲げアフガニスタンやイラクを攻撃。対テロ戦争を優位に進めるため、国際テロ組織アルカイダと対立していたパキスタンとの関係を緊密化し、同国の経済制裁を解除した。インドとは原子力の技術協力で合意し、核をめぐる「二重基準」との批判を招いた。現在、両国はNPTに署名しておらず、事実上の核保有国としての道を進んでいる。

■米は批准せず

 米国は、北朝鮮やイランを強い姿勢で非難する一方、爆発を伴うすべての核実験を禁じる包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准していない上、核爆発を起こす「臨界」に至らない臨界前核実験を実施。使える新型核「信頼性のある代替核弾頭(RRW)」の研究開発も進めている。こうした米国の姿勢が、世界の核軍縮を停滞させているとの批判もある。

 世界にはいまだに約三万発の核弾頭が存在し、「唯一の被爆国」である日本の役割と真価が問われている。

 土山氏は「米国の核の傘にある日本が、核廃絶に向けて思い切った発言ができるかにかかっている」と指摘。「地球市民集会で核拡散に向かっている現状を打開する具体案を示し、北東アジアの非核兵器地帯の構築につなげたい」と話す。


 メモ/包括的核実験禁止条約(CTBT) 核爆発を伴うすべての核実験を禁止する条約。1996年9月の国連総会で採択された。2006年8月現在の署名国は176カ国、批准国は135カ国。発効には軍縮会議加盟国で研究用、発電用の原子炉を保有する44カ国の批准が必要だが、未署名国のインド、パキスタン、北朝鮮を含め、米国、中国など10カ国(2006年8月現在)が批准しておらず、発効していない。


 メモ/核拡散防止条約(NPT) 核保有国を米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国に限り、非核保有国には原子力の平和利用の権利を認めるなどとした条約。1968年調印、70年に発効した。現在、約190カ国が加盟。事実上の核保有国とされるインド、パキスタン、イスラエルはNPTに署名しておらず、北朝鮮は加盟していたが2003年に脱退した。5年ごとにNPT再検討会議を開き、運用状況を点検している。


**** 関連企画 ****
21日=伝えよう原爆の恐ろしさを「ナガサキ原爆写真展」(終日、長崎ブリックホール)

21−22日=祈りと鎮魂の夕べ(午後5時−9時、平和祈念像前)

21−23日=戦時の暮らし体験と未来へのメッセージ・パネル展示など(長崎原爆資料館)

22日=核兵器のない世界を創造しよう−ユースアクション−(午後5時半−7時、原爆資料館)

22日=9条フェスタinナガサキ(午後5時15分−7時半、国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館)500円

22日=映画「NAGASAKI1945アンゼラスの鐘」(午後6時半−8時、原爆資料館)500円

22日=生かされ生きて被爆の実相を語る(午後6時−8時、追悼平和祈念館)高校生以下無料、大人500円

22日=核兵器全面禁止のための草の根活動の交流(午後6時−8時半、原爆資料館)

23日=有原誠治監督と歩く『アンゼラスの鐘』ゆかりの地さるくツアー(午前9時−正午、原爆資料館前集合)500円

23日=碑巡り(午前9時半、原爆資料館平和案内人カウンター集合)



分科会コーディネーターに聞く


8つの分科会で討議を深めた第2回地球市民集会=2003年11月22日、長崎ブリックホール

◇非核宣言自治体
元長崎市平和推進室長/田崎昇さん(62)

 戦争が起これば自分たちの住む町や市が攻撃され、犠牲となるのは市民。非核宣言の原点に返り、核兵器廃絶のために自治体と住民が何をすべきか、自治体と国内外の非政府組織(NGO)との連携をいかに進めるかについて考えたい。

 非核宣言自治体の起こりは英国のマンチェスター市といわれる。冷戦時代の一九七九年、旧ソ連と米国がヨーロッパに中距離核ミサイル配備を計画。「ヨーロッパの戦場化」という危機の高まりの中、核兵器反対の意思を表明した。

 運動はヨーロッパや世界各国にも広がり、第二回国連軍縮特別総会が開かれるきっかけになった。日本でも急速に拡大し、八〇年代は非核宣言運動がピークを迎え、非核地帯形成へ向けた機運は高まったかにみえた。

 しかし今、日本の「平和行政」を取り巻く環境は厳しい。市町村合併に伴い、二〇〇三年に全自治体の約八割を占めていた宣言率は〇六年には七割に減少。自治体の財政再建が叫ばれる中、平和活動の停滞が懸念されている。

 フォーラムではオーストラリアの反核平和運動家、フェリシティ・ヒル女史や地方自治の識者、自治体の代表らがゲストで出席する。世界の反核運動の現状や、国内における今後の非核宣言の活性化、現在の問題点などについて論議し、会場からも意見を求めたい。


◇平和教育
長崎大大学院教授/溝田勉さん(61) 

 戦後六十一年が過ぎた今、抑止力としての核兵器の存在の高まりに加え、新たな核の拡散が世界を脅かしている。被爆体験の風化が叫ばれる中で、被爆地長崎としての平和教育の現状と課題について三つの問題提起を柱に議論を深めたい。

 一つは、なぜ原爆を語るのか、ということ。原爆を落とされたという「被害者意識」ではなく、核兵器や大量破壊兵器の生産や使用が「人類の滅亡」につながるという普遍的な問題があることを運動の動機の基礎としてもらいたい。

 二点目は「原爆を語ることだけが平和教育ではない」ということ。今、途上国は貧困や環境、人権など多くの問題を抱えている。その問題に目を向け、解決法を探ることが、核問題への協力者を世界規模で増やす方策ではないだろうか。

 最後に「人材育成」について。今、政府の平和教育の在り方が問われている。「教育委員会」を現在のような中央集権的ではなく、現場の声を反映させる地域に根差した運営方法に改善させ、平和教育を組み入れていくことを提案したい。

 ニュージーランドや米国の平和教育活動家らを招き、海外における地域での教育の方法や教材など具体的な実践例を紹介してもらう。また、日本の教育現場からも専門家や教諭、生徒が出席し、現場での課題や問題点を報告する。


◇非核兵器地帯と核の傘
NPO法人「ピースデポ」代表/梅林宏道さん(69)

 核軍縮をめぐる情勢が決して好ましい状況にあるとは言えない中、国際社会では、幾つかの大切な動きが新たに進行している。そうした動きの報告を柱とする基調講演を受け、この分科会では「日本が何をしなければならないか」を中心に論議する。

 具体的には、米国の「核の傘」によって安全保障を確保している今の日本の政策を、外交戦略的な有効性と道義的な側面の双方から考えたい。

 発言者の一人で、「一国非核地位」を宣言したモンゴルのエンフサイハン元国連大使には、非核地帯の持つ安全保障上の有効性について話してもらう。また、日本に投下された二発の原爆が、アジア諸国にとっては「解放の核」だったという点から、こうした歴史的な違いを克服する必要性や、そのための対話の提言なども行われるだろう。

 北朝鮮の「核実験実施」は、必ずしも東北アジアの非核兵器地帯化を遠のかせるものではない。この事態を招いたのは、核の傘に安全保障を依拠してきた政策の失敗だ。核実験を歓迎しないのはもちろんだが、私たちの主張の正当性が示された、ともとらえている。

 外務省の芹澤清・軍備軍縮管理課長も発言者として参加する。「核の傘」の下から北朝鮮の核武装だけを非難することが、国際社会で説得力を持ち得ないことについても議論したい。


◇核兵器廃絶と多国間交渉
大阪大大学院教授/黒澤満さん(61)

 テーマは「核兵器廃絶へ向けた世界の動きと日本の役割」。核拡散防止条約(NPT)体制の弱体化の危機を克服し、核兵器廃絶を達成するためにはどうすべきかを考える。イラン、北朝鮮の核開発、米国の核政策、NPT体制強化や核兵器廃絶に向けた国連や各国の取り組み、特に日本政府と非政府組織(NGO)の果たすべき役割と可能性−などを話し合う。

 話し合いのポイントは▽現状の分析▽現状打開のために国際社会や日本政府に対して何を発信すべきか▽NGOは何をすべきか。集会に参加した人たちの間で、現状への共通認識をつくり上げ、今後の運動や考えについて方向性を示すことが狙い。

 問題として取り上げるのは▽米国の核政策への批判▽ジュネーブ軍縮会議の停滞への対処▽日本政府の核軍縮政策の検討▽イラン、北朝鮮など核拡散への対応。

 この分科会のメンバーは核軍縮問題の経験が豊かなので、国際的な側面での実情の分析、日本政府やNGOに対するメッセージが期待できる。

 米国を中心に核軍縮と逆行していくような、国際的に極めて危機的な状況にある中で、これらの諸問題を徹底的に議論し、新たな方向性を模索し核兵器のない世界に向けて行うべきことを、みんなで考えていきたいと思う。


◇被爆者
長崎総合科学大長崎平和文化研究所運営主任/芝野由和さん(56)

 日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の結成から今年で五十年を迎え、被爆者運動の原点に立ち返り、被爆者が何を願ってきたのかを考えたい。

 その出発点は原爆投下の一九四五年八月九日であっても、被爆者の生き方や考え方を理解することが被爆体験の継承につながる。なぜ被爆者は米国や日本政府の責任を追及しながらも、「やられたらやり返す」という発想ではなく、核兵器廃絶という生産的な方向に向かったのか。

 戦後六十一年が過ぎて日本では戦争をリアルに感じられない中、有事対応の国民保護計画に見られるように、核兵器攻撃への対処といった「机上の空論」がいろんな場面で出てきている。

 被爆体験が薄れてくると、戦争に向けた動きに歯止めが利かなくなる恐れがある。警鐘を鳴らすため、核実験場の被ばく者や一般戦災者らと連帯することの必要性や、被爆者でない人や若い世代がどう活動にかかわるのかについて議論を深めたい。

 もう一人のコーディネーターで広島大名誉教授の舟橋喜恵さんのほか、長崎原爆被災者協議会事務局長の山田拓民さん、長崎被爆二世の会代表の小浜ちず子さん、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会事務局担当運営委員の湯浅一郎さん、平和案内人の調仁美さんの計四人のパネリストがそれぞれの立場で話し、会場からも意見を聞きたい。


◇青少年
長崎大大学院生/河野晋也さん(24)

 「原爆はもういい」という声がある。しかし、それでいいのだろうか。若者にとっては祖父母のような被爆者が必死で体験を語り続けている。なぜなのか。「もういい」のではなく、知らないことは「まだある」のではないか。

 核兵器を廃絶するには、やみくもに「核兵器はだめだ」と言うのではなく、なぜだめなのかということについて考える必要がある。このフォーラムでは、核兵器に対して「理性」と「感性」の二つの面からのアプローチを考えている。

 まず、核兵器の脅威について基礎的な「知識」を共有することから始める。長崎大医学部や薬学部の学生を中心としたメンバーが図やデータで示しながら、爆風の威力や被害、放射能が人体へ及ぼす影響などを話す。

 次に二人の被爆者に「若者に望むこと」をテーマに被爆体験や思いを語ってもらう。被爆の苦しみや実相について生の声を聞くことで聞き手の「感性」を醸成することが狙い。下平作江さんと山脇佳朗さんの二人の被爆者がゲスト。

 最後に「知識」と「感性」の両方から感じた問題について討議する。興味、関心が多い若者に平和について考えてもらえるための有効な動機付けの方法や、高校生一万人署名のように目的も活動内容もはっきりした継続可能な新たな平和活動について模索したい。



2006年10月18日長崎新聞掲載



ピースサイトトップ