新聞の顔といわれる1面の「長崎新聞」と記した題字の下に、2万人に近い死者・行方不明者数が並ぶ一覧表を掲載し続けて、新しい年を迎えた(新年は4日付から)。大津波を伴った東日本大震災、そして東京電力福島第1原子力発電所のメルトダウン(炉心溶融)事故。途方もない犠牲者を出した大震災からの復旧・復興は政治の混乱もあって遅れている。原発事故では政府の冷温停止宣言にもかかわらず、今なお、ふるさとへの帰還のめどが立たない数万の人々がいる。
変革と激動の予感
世界では、ギリシャで表面化した欧州の財政危機がスペイン、イタリアなどに拡大、各国で交代が相次ぎ、チュニジアの政変をきっかけに中東全域に民主化運動が広がり、独裁政権の崩壊が続いた。昨年末の北朝鮮の金正日総書記の急死は世界に波紋を広げたが、今年はアメリカ、ロシア、フランス、韓国で大統領選挙があり、中国では党大会で総書記が交代する。
大震災の後遺症と円高に苦しむ日本経済、そこに劣化する一方の日本の政治状況が出口の見えない閉塞(へいそく)状況を生み出している。世界のトップが相次いで交代する変革と激動の時代。年は明けても将来への不安感は消えそうにないが、だからこそ新年にあたり、郷土の明日を考える意義がある。
こぎだせ上海航路
県内に目を移せば、昨年11月、第1便が就航したハウステンボス(HTB)の上海航路(長崎−中国・上海市)が2月29日から営業運航することになった。同社の発表では、中国人の大量集客が見込める旧正月の1月下旬就航を目指していたが、日中両国の安全検査、航路などの許認可が遅れており、延期を決めた。
HTB子会社のHTBクルーズが運航する旅客船オーシャンローズ号(約3万トン、定員千人)は、現在、中国で改修工事をしており、営業第1便は2月29日午後6時に長崎発、復路は3月3日午前10時、上海発となる。船は3月14日まで週1往復で不定期運航し、同16日以降は週2便の定期運航となる。
1月下旬の営業運航開始が迫っても運航計画や料金体系が一向に明らかにされず、県議会や旅行関連業界から不安やいら立ちの声が出ていたが、予定より約1カ月遅れたとはいえ営業運航日程が明示されたことで、関係者は一様に安堵(あんど)の声を上げた。就航日程や料金の公表がこれだけ注目を集めるのは、上海航路への県民の期待の大きさを物語っている。
大正から昭和初期に上海−長崎に定期就航した日華連絡船は明治以降、下降線をたどっていた長崎市の市勢を復活させる原動力となり、日本初の国立公園に指定された雲仙の発展を含め、一時代を画した。航空機の発達など交通体系の劇的な変化はあるものの、まだ「昇竜」の勢いを持つ巨大市場の中国をターゲットにした定期航路の開設に本県の経済浮揚の起爆剤としての期待は膨らんでいる。
一度は経営破綻したHTBを、傘下に入れてわずか2年目で1992年の開業以来初めての通期営業黒字に導いた澤田秀雄社長の手腕が問われるが、上海航路復活の背景には、長崎と中国の固い絆を築いてきた歴代の関係者の努力や県民の熱い期待があることを忘れてはならない。空路と競合しての日中での集客など困難な課題はまだ山積している。澤田社長自身も「当面は試行錯誤が続く」と話しており、航路定着には一企業の努力だけではなく、広く情報を公開して行政、民間、さらに県民が一体となれる緊密な推進態勢構築が不可欠である。
弾みつける新幹線
県は本県の活性化策として「アジアに向け開かれたゲートウエー(玄関口)に」との戦略を描いている。その構想に弾みをつける朗報が届いた。昨年末、政府は九州新幹線長崎ルートの諫早−長崎間の着工の方針を決めた。これで長崎ルートは既に着工されている武雄温泉−諫早間に続いて全線開通の見通しとなった。3月までには着工が認可され、10年後の2022年度に開業の見込み。時間差はかなりあるが、上海航路と新幹線がドッキングすると観光ルートは関西圏まで広がり、本県は中国と日本の結節点として飛躍する可能性が広がる。
隣県との絆を強く
ここで重要となってくるのが、本県が陸部で唯一隣接する佐賀県との協調、協力関係だ。新幹線長崎ルートが1973年の整備計画決定から全線開通の見通しが立つまで38年を要したのも財源問題を除けば佐賀県との調整が鍵を握った。県北地域が強烈に反発した佐世保を通らない短絡ルートの採用など互いに協調し、決断を重ねてきた歴史がある。東アジア全体を市場として人、物の流れを展望するとき、本県だけでの取り組みはおのずと限界がある。広域連携、特に佐賀県との協力関係強化は不可欠だ。
新年から佐賀空港と上海浦東空港間に格安便が就航し、上海航路との競合を懸念する声もあるが、船旅の魅力を磨き、海、空を組み合わせた商品を開発することで新たな需要の開拓は十分に可能だ。互いの利点を高め、競い合いながらも全体のパイを増やす「競争と協調」の態勢を築かねばならない。諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門の常時開門をめぐってあつれきが続く両県だが、知恵を絞り合って困難な時代を切り開きたい。(馬場宣房)