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世界遺産への旅 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産・3
かくれキリシタンの聖地、中江ノ島。中央の岩場で聖水を採取している=平戸市(小型無人機ドローン「空彩1号」で撮影)
かくれキリシタンの聖地、中江ノ島。中央の岩場で聖水を採取している=平戸市(小型無人機ドローン「空彩1号」で撮影)

平戸の聖地と集落 中江ノ島(平戸市)

 梅雨入り前のある晴れた日、真っ青な平戸の海を滑るように小さな漁船が走る。「かくれキリシタンの聖地」と呼ばれる「中江(なかえ)ノ島(しま)」がぐんぐん目の前に迫ってきた。

 中江ノ島は、平戸島と生月島の約2〜3キロ沖にぽつんと浮かぶ。全長400メートル、幅50メートルの細長い無人島だ。周囲の切り立った崖が人を寄せ付けぬ雰囲気を漂わせる。

 キリスト教が禁じられた江戸時代、生月島と平戸島西岸では多くの民衆が「潜伏キリシタン」となり、ひそかに信仰を続けた。中江ノ島はキリシタンの処刑場だった。

 生月島には今なお、信仰を隠していた禁教期の伝統を受け継ぐ「かくれキリシタン」が暮らす。信者は殉教地の中江ノ島を最高の聖地とみなし、洗礼やおはらいに使う「お水」という聖水を採取するために島へ渡っている。

 生月のかくれキリシタンは崇敬の思いを込め、中江ノ島を「サンジュワン様」や「おむかえ様」「御三体様」と呼ぶ。中江ノ島はキリシタンの伝統そのものといっていい。国が2010年に選定した重要文化的景観「平戸島の文化的景観」にも含まれている。

■信徒を処刑

 江戸前期の1622年、日本に潜入して平戸や生月を中心に布教していたイタリア人のコンスタンツォ神父が宇久島で捕まった。神父は同年9月、平戸市田平町焼罪(やいざ)で火あぶりに処された。殉教地には史跡公園が整備されていて、神父をたたえる記念碑が立つ。

 平戸藩は神父をかくまったり、手助けしたりした信徒を続々と捕らえた。「日本切支丹宗門史(にほんきりしたんしゅうもんし)」によると、刑場の中江ノ島では同年5月、ヨハネ坂本とダミヤン出口(いでぐち)が斬首となり、翌月にヨハネ次郎右衛門が処刑された。

 1624年には、出口と坂本の家族計11人が中江ノ島で殉教した。出口の末子で7歳のイサベラは殺された母の遺体の上にひれ伏したまま切られた。坂本の子ども3人は俵に詰めて縛られ、島の沖で海に投げ込まれた。

 中江ノ島で処刑された14人のうち、坂本、次郎右衛門、出口の子の3人が「ヨハネ」の洗礼名を持っていた。「ヨハネ」はポルトガル語で「ジョアン」と読む。島の中央部には、かくれキリシタンが建てたほこらがあり、3体の「ジュワン様」の像を安置している。生月のキリシタンは島を「サン(三)ジュワン様」や「御三体様」と呼ぶことで、殉教の記憶を大切につないだのかもしれない。

■祈りに反応

 生月島北部の壱部(いちぶ)に住むかくれキリシタンの川崎雅一さん(67)は昨秋、数年ぶりに中江ノ島で「お水取り」をした。

 島の中央部に、縦に亀裂が走っている崖がある。そこに供え物をして、ろうそくをともすと、正装した3人の信者仲間と声を合わせ、禁教期から受け継ぐ「ごしょう」というキリシタンのオラショ(祈り)を約1時間唱え続けた。すると亀裂からじわじわ水が染み出てきて、茶わん1杯分ほどを採取した。

 水は持ち帰り、「お魂入れ」の儀式をすることで聖水の「お水」となる。かつては洗礼に用いていたが、近年は洗礼を授かる人がいない。現在では家にまいたり、「オマブリ」と呼ばれる紙の十字架に振り掛けたりして、主に清めに使う。

 川崎さんは「かくれキリシタンの信者がごしょうをしないと水は絶対に出てこない。キリスト教の祈りでは駄目です」と言い切る。「お水」は陶器のびんで保管して大切に祭る。何年たっても腐らず、減りもしないと信じられている。

 漁船で中江ノ島を一周し、平戸島に戻る途中、島で処刑されて殉教した次郎右衛門の話を思い出した。彼は死刑宣告を受け、船に乗って島に近づいた時、「ここから天国は、もうそう遠くない」と言った。遺体はこの青い海に沈められた。

 大半の人が衣食住に不自由せず暮らせる現代よりも、昔の人の方が、天国での安らかな暮らしを願っていたのは確かだろう。トビウオが何か言いたげに漁船を追い掛けてきた。

 ◎メモ

 中江ノ島は下中野生産森林組合(平戸市)の所有地で、許可なく上陸できない。平戸観光協会は7月22日から8月10日の間に10日ほど、島を周回する観光クルーズを実施する予定。生月町博物館・島の館(同町南免)はかくれキリシタンの展示が充実している。問い合わせは平戸観光協会(電0950・23・8600)、島の館(電0950・53・3000)

 ◎コラム/消えゆくかくれキリシタン

 川崎さんは地域に昔から伝わる「お神様」を自宅に預かり、祭っている。お神様は2幅の掛け軸で、赤子を抱いた着物姿の「マリア様」が描かれている。

 父・森一(もりいち)さんは、かくれ組織の役職者「オヤジ役」だった。川崎さんは父の死後、2001年に巻き網漁船を下り、「ごしょう」を覚えた。03年にオヤジ役を継ぎ、年10回ほどの行事をしながら先祖代々の信仰を守り続けている。

 かつての生月島は、ほぼ全住民がかくれキリシタンだったという。だが、宗教に対する関心が薄れ、役職者を継ぐ人が不足し、信者は減少する一方だ。生月町博物館・島の館によると、現在の信者は約300人。住民の5%にすぎない。

 正月の行事で川崎さん宅のお神様を参詣する信者は3、4人という。「多くの人が、お神様を拝んでも意味がないという気持ちになっているのではないか」と寂しげだ。「先祖が一生懸命にやってきた信仰を私の代でつぶせない」という一念が、信仰をかろうじてつないでいる。





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