| | 県、佐世保市と反対派の対立が続く石木ダム建設問題。事業工程案にも影響を与えている
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県と佐世保市が東彼川棚町に計画している石木ダム建設事業は、1975年に国の事業認可を受けてから36年が経過。地元地権者らの長年にわたる根強い反対で本体着工には至っていない。手詰まり状態が続く中、県は2008年、完成目標を「16年度中」とする事業工程案を発表。しかし地権者の同意獲得はいまだにかなわず、工程案の実現性に疑問の声も上がり始めた。現状を探る。
8年で「完了」
工程案では▽09年度に予定地周辺の付け替え道路工事に着手▽12年度から4年間でダム本体工事▽完成した本体に水をため、安全性や貯水能力を確認する試験湛水(たんすい)を15年度から始め、16年度末の事業完成を目指す−とする。過去にも完成目標年度を示し、その都度延長してきたが、詳細な工事スケジュールを明記したのは初めてだった。
なぜ「16年度中」を目標に据えたのか。県によると、同市水道局が立てた17年度の水需要予測に沿ったという。
市水道局によると、同局は1997年、財団法人日本水道協会の「水道施設設計指針」に基づき、水道事業の基本計画策定を開始。この指針では15〜25年先の水需要予測を立てるのが望ましいとしており、市は20年後(2017年度)の水需要予測を含む計画を立てた。
市の予測によると、合併前の旧佐世保地区で市民1人1日当たりの生活用水使用量を221リットル(10年度実績は190リットル)、同年度の給水人口は22万人(同22万7千人)と推定。生活用水、工業用水、漏水分などを合算し、1日必要水量を11万7千トンと算出。市は現状、1日7万7千トンが安定取水できるとし、石木ダムからの取水分4万トンが欠かせないとする。
ただ、野口浩県河川課長は工程案について「あくまで工事がスムーズに進展した場合の目標設定。地権者の同意は考慮されていない」とする。同意獲得の見通しがないまま、市の予測から逆算してのタイムスケジュール設定は最初から実現性に危うさを抱えていたといえる。
国の政策転換
工程案発表の約1年後、県市にとって不測の事態が起きた。民主党が政権交代を果たし、全国のダム事業の全面見直しを表明。国と水資源機構が主体の国直轄ダムと、石木ダムなど国庫補助で道府県が行う補助ダムの計83事業を対象に、各事業主体に再検証を要請。補助ダムを計画する各道府県はそれぞれ再検証後の結論を国に提出している。
本県では、県、佐世保市、川棚、波佐見両町で「検討の場」を構成。昨年12月から今年5月にかけて会議を計3回開いた。その結果、「現行ダム案が他の代替案よりコスト面で優位」などと結論付け、知事の諮問を受けた有識者による「県公共事業評価監視委員会」も事業継続を容認。7月、国に結論を提出した。
国は道府県から順次出された結論を受け、09年12月以降「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」を開催。今月7日までに計21回の会議を開き、八ツ場ダムなどの国直轄と補助事業を含む計22事業を検証。このうち19事業について対応方針を決め、そのすべてが事業主体の方針を追認する内容だった。だが、石木ダム事業はまだ検証の俎上(そじょう)にものっていない。
県石木ダム建設事務所(川棚町)の古川章所長は「早く結論(対応方針)を出してほしい」と、国の政策転換による事業の足踏みに不満と焦りをにじませる。
付け替え道路
県が国の対応方針を待ちわびる理由の一つに、09年度に着工しながら地権者らの抗議で中断した付け替え道路工事の問題がある。
県は10年3月、重機を投入してダム周辺の付け替え道路工事に着手。工程案で示した09年度中の着工に何とか間に合わせた格好だが、着工直後に地権者らが現場入り口を座り込みで封鎖するなど猛反発。県はわずか4カ月で中断を余儀なくされ、再開のめどはいまだに立っていない。
工事再開の遅れは、予算面でも痛手となりそうだ。09年度の道路工事の全体予算は県、市合わせて約2億円。このうち、本年度に繰り越した事業費は約9700万円。現時点で年度末の執行額は「確定できない」(県)が、制度上、繰り越しが可能なのは2年間。本年度末までに執行しなければ未執行分の国庫補助は流れてしまう。
国が、県の方針を追認する対応方針を出せば、同ダムは国の"お墨付き"を得られる。それにより工事再開に弾みをつけたい思惑がのぞく。
事業認定申請
県が、国に対応方針を早く出すよう求めるもう一つの理由は、事態打開を目指して踏み切りながらも宙に浮いている事業認定の手続きを進展させたいためだ。
事業認定は土地収用法に基づき、補償と引き換えに土地などの権利を国や地方自治体が強制的に取得する制度。09年11月、当時の金子原二郎知事は退任表明の直後、「法的な手続きの中で話し合いが促進するように」と申請に踏み切った。土地の強制収用に道を開き、住民を対話のテーブルに引き出そうとの狙いがあった。
従来、申請から告示までに要する期間は通常8〜10カ月程度。しかし、石木ダム事業は申請から2年以上経過した今も、手続きの初期段階である申請書の公告・縦覧終了で止まっている。次の段階は、事業の利害関係者が意見を述べる公聴会の開催だが、認定庁の国交省九州地方整備局は「事業主体や地元住民の意見を聞くために最適なタイミングを検討している」とするのみ。国が事業の対応方針を示さない限り、事業認定の手続きも進まない。
ダム事業の中止を求める全国の住民団体でつくる「水源開発問題全国連絡会」(東京)の遠藤保男共同代表は「県が事業認定申請したことが、かえって国を慎重にさせている」と分析。「地権者が建設予定地に暮らしながら反対を続けているケースは全国でも他にない。強制収用に至った場合、国も責任を問われるだけに覚悟が必要。そう簡単に結論は出せないはず」とみる。
実現性乏しい
反対派は工程案や事業認定申請など県の動きに対し、その都度反発を強めてきた。民主党に事業中止を直接要望するなど、中央への働き掛けも強めている。地元地権者らでつくる「石木ダム建設絶対反対同盟」の岩下和雄さん(64)は国の判断が示されない点を「地元理解が得られない実情を理解し、慎重になっている証拠」と主張。工程案についても「実現性が乏しいのに発表した。われわれの反対は変わらないのだから、計画は破綻している」と切り捨てた。
◎記者ノート/覚悟なければ「絵に描いた餅」
2008年7月。県と地権者はにらみ合い、事態に何ら進展がない中での工程案発表だった。当時の県担当者は「通常、公共事業は工程が示される。反対地権者に圧力をかける意図はない」とコメント。ただ「地権者の同意が最重要」と一貫して主張してきただけに、具体的な施工目標年度を記した工程案と、その実現性に強い疑問を抱いた。
それから3年余り。"最後の切り札"ともされる事業認定の申請や、国の要請を受けて着手した事業再検証など、手続き上進んだ点はある。しかし、一連の行動で地権者との関係はさらに悪化し、工程案の進捗(しんちょく)にも影響を与えている。本体着工や付け替え道路の完成時期は1年先送りせざるを得なくなり、主だった工事がすべて最終年度に仕上がるという"待ったなし"の状態だ。
県が自ら期限を区切り、退路を断ったことは一つの覚悟の表れ。よもやこの先「地権者の反対が想像以上で...」などと理由を付け、完成目標を安易に先延ばしすることはあるまい。佐世保市民からは、長年にわたり着工できず、現地住民はおろか同市民をも翻弄(ほんろう)し続ける県への批判も聞こえる。
強制収用に道を開いたのは県自身だ。手続き上、最後には強制収用の手続きが控える。いつ、誰が、どのように決断を下すのか。そのビジョンと覚悟がなければ、工程案もただの絵に描いた餅にすぎない。