75
   井坑伝説   (富江町)    


盆の夜、穴から読経の声
 富江町は多くの溶岩トンネル「井坑(いあな)」がある。天然記念物に指定されている井坑は、海に通じているためか、それにまつわる伝説がある。
 ある時、富江の武士が修行僧に出会って、よもやま話をした。僧は誠らしく、「井坑は黒島まで続いている。黒島、黄島にも井坑がある」という。武士は「そんなことはない、奥は海だ」と言い争いになり、どちらも引っ込まない。それならお前が井坑に入って黒島に出てみよ、と怒った武士が刀に手をかけて怒鳴った。
 僧は致し方なく犬を連れ、カンテラを提げ念仏を唱えながら井坑に入った。二百メートルぐらいまで進むと先は海水で進めない。しかし、約束は約束である。海水の中を進んだが、ついに溺れ死んだ。犬は泳いで黒島に着いたという。いい加減な言葉を慎めという寓話であるが、何と痛ましい話ではないか。
 井坑の近くの岩下洞穴には幽霊の伝説がある。盆の十五日の晩、穴の奥に青白い光がともる。読経の声も聞こえる。不思議に思った村人が近寄っていくと光は消え、読経もぴたりと止む。そこを離れると再び、光がともり、読経が始まる。昔、逃亡した罪人が井坑に隠れたが見つかって、処刑され、井坑の奥深く投げ込まれた。その魂が恨めしそうに出るのだという。奇特な人が鎮魂のため、穴の奥深いところに観音地蔵をたて供養したという。
 只狩山にも盆の十五日の晩になると、井坑から火の玉が昇ってくるのを何人も見たという。火の玉は山を回り、村の方に降りてくる。村人は、処刑された人の魂がさまよっていると思い、狩立の辻に地蔵さまをたてた。碑には南無阿弥陀仏と刻している。
(崎 連)

  メ   モ  
 観光井坑は富江から車で約5分。井坑東入り口に自動説明装置や説明板がある。東西いずれの入り口からも413メートルで外に出られる。途中粘土で滑りやすいので要注意。

文化百選五島編/民芸へ戻る